蒼い世界に指切り 第5話 否定しないでくれ オレを オレの存在を否定しないでくれ――――― 愛情を知らずに育った、といえばまるで悲劇の主人公のような響きだが、実際はそんな綺麗なものじゃねえ 愛される条件を、自ら捨てる道を選んだ 手に入れる為なら、オレは簡単に人を殺められる それが例え肉親だったとしても・・・・・・ アンタは知らない そんな汚れたオレを知らない 知らないままでいい アンタが無邪気に笑ってくれるから、オレはいつからか失った心を取り戻していた オレは、ここに帰ってきていいんだ、と アンタの願った世界を作る それだけは、本当なんだ だから、いつき・・・・・・・・・ 城へと戻った政宗はすぐさま、いつきを医師に預けた。 「小十郎、そっちはどうだった。」 「斥候が戻って参りました。少女を襲ったのは長く伸びる剣を自在に操る男―――竹中半兵衛。豊臣方の者のようです。」 「豊臣・・・竹中半兵衛、か。」 政宗はキリッと歯を鳴らした。 「行くぞ小十郎!」 「どちらへ・・・?」 「決まってる、豊臣を潰す。」 「あなたが今なされるべき事は農民の敵討ちではございません。あなたが今気にかけるべき事は他に山程有る筈。農民の少女一人を構っている場合ではございません。」 「An?いいか、小十郎。民一人救えねえ奴がこの国を統べる事が出来る訳がねえんだよ。」 「・・・そう言うと思っておりました。」 小十郎は配下に再度出陣の支度を促した。 政宗は装備を整え、最後にもう一度いつきの元へ向かった。医師がこちらに向き直る。 「命に別状はございません。まったく、凄まじい回復力です。」 (そりゃあ、この少女のお陰でオレ達はいつも米が食えてるんだ。体力だけは人一倍、だろ・・・?) 「・・・今、ここでくたばる訳にはいかねえよな?アンタはオレと約束した。そうだろ?いつき。」 深い眠りに就く少女の額に、自分の額を重ねた。 「待っている・・・いつき。豊臣を潰したその先で・・・。オレが作る、アンタの望む世界で・・・・・・。 だから、全力で追いかけて来い。その足で、いつもの様に笑いながら―――・・・」 眠る少女の髪をそっと撫でた。 「それまで、元気でな、いつき。」 政宗は最後に一言付け足した。 「・・・ああそうだ。今度会った時は―――オレを、名前で呼んでくれ。」 政宗は少女の指に小指を絡めた。 “政宗”って呼んでくれ。 そしたら、オレはまだここに存在できるから。 [*前へ] [戻る] |