夢小説の館 三 ないている 「万理・・・。綺麗じゃ・・・。母によう似ておる。」 「父上・・・。」 「万理・・・、幸せに、なっておくれ・・・。」 私は白装束を身にまとい、木曽の里へと続く長い道程を輿に揺られながら進む。その大規模な行列の中に護衛として幸村もいた。 あれから今日までの間、幸村とは会う事が無かった。今も、列のどのあたりにいるのかさえわからない。 「旦那、雲行きが怪しい。一雨来そうだ。・・・旦那、聞いてる?」 「ああ。」 「姫様がとうとう結婚する日がくるとはね。」 「ああ。」 「寂しくなるね。」 「ああ。」 「姫様は旦那が好きなのに。」 「ああ。・・・・・・あ!?」 「一応聞いてたんだ。」 「佐助、この様な時に何を言っておるのだっ!」 「姫様、何度も言ってたじゃない。」 「しかし、姫様が一家臣に過ぎぬ某の事など本気で・・・、」 「姫様が、いつ旦那を家臣扱いした?姫様が想っていたのは武田の一家臣?――それとも“真田幸村”という一人の男?」 ―――幸村がいいの―――・・・ 「・・・泣いておられた・・・。俺が、傷つけた・・・。」 空が、泣き出した。 「まずいな、こりゃあ休める場所を早く見つけないと。」 「風も出てきたな・・・。おい、しっかり運べ!」 輿の外で声がする。次第に雨は激しくなっていった。 「姫様ー、もう少しの辛抱ですぞー!」 「この先に宿がございますー!そこまで我等が必ずやお守り致し・・・。」 「みんなの方が、ずっと辛いのに・・・。」 輿に当たる雨の轟音で、従者の声もかき消されてしまう。 「私、自分で歩くから!だからみんなも荷物を置いて早く・・・!」 「なりません!姫様の大事な婚礼の儀なのですから・・・っ。」 私は輿から降り、ぬかるんだ地面の上に立った。 「姫様!お戻りください!衣装が・・・・・・!!」 「・・・無事かな・・・・・・。」 辺りは暗く、打ちつける雨で目を開けているのさえ辛い。 「見えない・・・。どこ・・・どこにいるの・・・?」 泥の中を駆け出す。すれ違う者達が何度も私を呼び止めるけれど・・・。 「―――幸村ぁ!!」 ・・・何も、聞こえないよ・・・・・・。 目の前が揺らいで、視界が滲んで、いつの間にか冷たい土にうつ伏せてまぶたを閉じていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |