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夢小説の館
二 あなたがよかったのに


一日が終わるのが寂しくて、
逢えない日が悲しくて、

やっと逢えたら、嬉しくて抱きつきたくなる。

こんなにどきどきした事なんて初めてなの・・・。


「――姫様はまた幸村殿の稽古を見ておられる。」
「最初の頃は仲が良くて微笑ましいと思っていただけだが、いずれこのままでは・・・。」

家中の者達はそのうちに二人が一緒にいる事に顔をしかめるようになった。

「よいですか、姫様。あなた様はいつか武田のお家を守る為、他家へと嫁ぐ身であらせられるのですよ。」
「いつかは、お嫁に・・・。」
「そうです。ですからその・・・、今ここで特別親しい殿方を作られてはなりません。」
特別な・・・

それは、
「・・・幸村・・・の、事・・・?」
「左様でございます。」


幸村は、私にとって特別・・・・・・。

なら、私が嫁ぐのは・・・・・・・・・


「お呼びでございますか、姫様。」

「幸村!よかった、聞いてほしい事があって・・・。・・・え?」
今、“姫様”って・・・。

「・・・どうしたの?今誰もいないよ?いつもみたいに“万理”って呼んで?」
「・・・“姫様”。」
「どうしたの、幸村・・・。何で姫様なんて言うの・・・?」
「姫様は、武田の姫様でございます故。」
「何で、いきなり・・・。私、何かした・・・?」
「・・・・・・姫様は悪くありませぬ・・・。某が、全て・・・。ですから、某はこれからは武田の家臣として姫様に・・・、」

「何で・・・っ。何でそんな事言うの・・・?わかんないよ・・・っ!!」



ねえ
その日からあなたをもっと強く想うようになったんだよ。

たとえもう名前を呼ばれる事が無くても・・・・・・。



「どうして家臣とは結婚してはならないの?」
その質問をする度に、父上は困った顔をした。

「万理は、幸村が好きか?」
「うん、大好き!」

「そうか・・・・・・。」


月日が経って、私は自分の立場を理解した。

けれど、今も望みは、ただひとつだけ。



「姫様、こちらにお出ででしたか。」
「・・・姫様じゃ、ない。」
「・・・・・・お館様が心配しておられます。そろそろ館にお戻りください。」
「あのね、嫁ぎ先、決まりそうなの・・・。木曽家のお殿様。」
「左様でございましたか・・・。それは、おめでとうございます。」
「本気でそう思ってる?」
「武田の為、姫様の為でございます故。」
「私はね、知らないどこぞの大大名よりも、幸村がいいの。」
「な・・・っま、またその様な事を・・・っ。」

本気だよ。幸村が好きだよ。

だから、何度話が来ても私はどこへも行かないよ。



でもその夜、幸村と佐助の話し声を聞いてしまった。

「いいの?このままで。」
「何がだ。」
「親しい姫様、このまま他国に盗られても。」
「何を言う佐助。武田家と木曽家の同盟が結ばれるのだ。素晴らしい事ではないか。」
「俺様、てっきり旦那は姫様に惚れているんだと思ってた。」
「あの方は武田の姫君。俺が姫様に恋慕の情を抱くなど有り得ぬ。この先も、ずっと・・・。」
「あ、旦那!」


涙が

あふれだした


「ひ、め、様・・・・・・」


そうか。

私は幸村にとって、主君の姫でしかなかったんだ。
特別な関係だとか思ってたのは私だけだったんだ。


「父上・・・・・・此度の話、受けとうございます。」
「だがお前は・・・幸村の事を・・・。」

「ううん・・・いいの。」



「幸村!幸村はおるかぁ!!」
「は!お館様、お呼びでございますか?」

「問う。お前の望みは何じゃ。」
「望み・・・でございますか。無論、お館様の天下統一でございます!!」
「ふぬっ!!」
主君は拳を振るった。
「ぐぁあっ!!」

「ワシが聞いとるのは幸村、己自身の望みよ。己の欲よ。お前が欲するものは何じゃ!」
「某は・・・・・・。やはり、お館様の天下以外・・・。」
「・・・もうよい。下がれ。」

幸村が去った後、主君は深い溜め息をついた。
「・・・本音を言えば、万理を同盟の“道具”になどするより、望んだ相手と結ばれてほしいと思うておる・・・。ワシは甘いかのう、佐助。」
「いいんじゃないすか?そういう大将がいたって。」




それから幾日か過ぎ、木曽家に嫁ぐ日がやって来た。



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