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夢小説の館
二 あなたがくれたもの

「・・・なあ、あんたどうすんだよ。仲間んとこ帰んないとまずいんじゃねえのか?」
「へーき。」

「平気って・・・。」
出会ったばかりのこの魚の尾ひれを持った少女は、今俺の寝床でごろごろしている。
「ふかふかー。」


遡る事数刻程前。

船内へと戻った俺は、まず冷え切った身体を温めるため熱い湯を浴びる事にした。

「あにきー、どこいくの?」
「おわっ男の風呂について来んなっ!」

歩くという動作が出来ない彼女は、木の板の上を這いずって後を追ってきた。
「すぐ戻ってくるから、大人しく待ってろ。出来るな?」
「うん!」

何故、彼女は出会って間もない俺にべったりなのか。
俺・・・ひょっとしたら人魚にモテるのか・・・・・・?


しかし風呂から上がると、彼女は野郎共に囲まれ楽しそうに笑っていた。
「女の子大歓迎っすよー!」
「中々可愛い娘だなぁ。ほれ、菓子食うか?」
「ありがとう!」

・・・何だよ。誰でもいいのかよ・・・。

「おい。」
「あ。あにきー。」

濡れた髪をかき上げ、無理矢理間に割り込み少女を担ぎ上げた。
「アニキずるいですぜー!」
という声は無視し、彼女を荷物の上に座らせた。

「幾つか、質問してもいいか?」
「うん。」
俺も腰を下ろし、向かい合う形で話を進めた。

「――本当の、本当に、人魚なんだな?」
「にんぎょ・・・?にんげん、じゃないよ。」
「水、浸かってなくても平気なのか?」
「へーき。ちょっと、かわくだけ。」
「どうやって水ん中で呼吸してんだ?」
「えら。こしのとこ、えらってゆうのある。」
「仲間は、どんだけいるんだ?この瀬戸内にもいるのか?」
「かぞく、たくさん。このうみのした、いるよ。」
「本気かよ・・・・・・。」

知らなかった。
人魚なんてもんは誰かの創作話の中だけの生物だと思っていた。
まさか実在して、しかもこの海の下で暮らしていただなんて。

それからの怒涛の質問攻めにも、彼女は片言ながら丁寧に答えてくれた。
そのうち眠くなってきたのか、こくこく頭を揺らし始めた。

「おっと・・・悪いな。疲れちまったか?」
「ん・・・・・・だいじょぶ・・・。」

と言いつつも今にも瞼を閉じてしまいそうだったので、仕方なく寝床を用意する事にした。

「アニキ、この娘の部屋ならオレ達が用意して・・・、」
「連れてくのは俺の部屋だ。」

「あ・・・・・・・・・そうっすか。」


少女を抱えたまま、俺は自室へと戻った。
足で戸を開けると、海のあちこちで見つけた宝・・・もといガラクタの山が目の前に広がる。
「我ながらすげえ散らかりようだな・・・。」
有り得ないくらいでかい貝殻、釣り上げた鮫の骨、異国から流れ着いた硬貨・・・
「きっとあんたなら、俺の知らないお宝をもっと見てきてんだろうな・・・。」

本当はもっと、いろんな話が聞いてみたかった。
だが・・・・・・・・・


――それから、冒頭へと戻る。

「・・・なあ、あんたどうすんだよ。仲間んとこ帰んないとまずいんじゃねえのか?」
「へーき。」

暫く彼女は寝床の上をころころ転がっていた。
「あにきも、いっしょにねる?」
「・・・俺は床で寝る。安心しな、半分魚の奴にどうこうする気は無えから。」
「どう・・・こう・・・?」
眠たそうな目を擦りながら尋ねられた。
「いや・・・何でも・・・。いいから今日はここで寝ろ。」

「うん・・・。」


「・・・そういや、まだ助けてもらった礼を言ってなかったな。」
横たわる少女の耳元で呟く。

「・・・ありがとうな。」

「あにき・・・。」

彼女は既に俺の寝床で気持ち良さそうに眠っていた。

「・・・いい夢見ろよ。」

その柔らかい頬を撫で、俺は部屋の隅で寝た。
布に包まった彼女は、確かに普通の人間の少女そのものだった。



――翌朝。

「あにきーっ!」

ぼふっ

俺は人生初、人魚の頭突きで目が覚めた。
「痛ってえーっ!」
「はよー。」

「おう・・・ってゆうかまた服着て無えし!!」
「ぬげた。」
「じゃ、無えだろうが!!・・・起きてから部屋の外に出てったりしてねえだろうな!?」

「いまおきたー。」
「そ、そうか。」

・・・何で俺がここまで心配してんだ。

俺はその辺にあった適当な布を彼女に巻きつけた。

「いいか、人前でこの布とるんじゃねえぞ。」
「あにきのまえでも?」
「あ・・・嫌、俺は歓迎・・・・・・って違ぇっ。いいから大人しくしとけよ!」
「うんっ!」

ったく、俺らの常識は通用しねえのか・・・。


・・・これからどうすりゃいいんだ・・・。

こいつが帰りたがらないから何となく一晩置いてやったが、このままって訳にもいかねえ。
確かにこいつは人魚・・・らしく、俺らとは違う存在の様だ。
外に彼女の存在が漏れて面倒な事になる前に海に帰してやるのが一番だ。



「え・・・うみに・・・?」

朝飯の後、野郎共が集まる中、甲板まで彼女を連れていった。

「そうだ。やっぱりあんたは帰れ。」

「・・・あにき、きのうは“いい”っていったのに。」
「そうだぜアニキ、女の子がいた方が楽しいじゃないすかー!!」
「そうだそうだー!!」

「だあ!うるっせえ!!いいか、あんたの為にも言ってるんだぞ。いつまでも俺達といるのは危険なんだ。俺達はなあ・・・時に他の国の奴らと戦わなくちゃならねえ。そうなったら、一番に狙われるのはあんたなんだぞ。」
「だいじょぶ。」

「・・・あのなぁ・・・何も解ってねえから簡単に・・・、」
「それでも。」

彼女は再度強く俺にしがみついた。


「もとちかと、いたい・・・・・・。」


・・・何でそこまで俺にこだわる・・・・・・?

「いいっていうまで、はなさない、から。」

「アニキ〜戦になったらオレ達で守ってやればいいんすよ〜。」
「なあ、アニキ〜。」
と、その場の全員から期待の目を向けられた。


「・・・あー解った解った、俺の負けだ。気が済むまで居な。」

「ほんとう?」
「その代わり・・・特別扱いは嫌いだ。今からお前はそこの野郎共と同じこの船の“仲間”だ。」

「おなじ・・・なかま。」
「おうよ。」
「へへー。おなじー!」
「わっだから抱きつくなって!」

「さすがはアニキ!人魚を子分にしちまうなんて!」
「それでこそ海の男ですぜアニキ!」

船内にアニキコールが沸き起こった。



 “もとちかと、いたい”か―――

・・・いきなりそこで名前呼ぶなんて卑怯だろうよ・・・。



「・・・名前か・・・。そういやお前、名前無えみたいだな。」
「んー・・・。」

「アニキが名付けてあげたらどうっすか?」
「それいいっすね!。」
「俺が!?・・・・・・あー・・・と、そうだな・・・。」

海を眺め、暫く考えてみた。名付け親なんてえのは初めてだからなぁ。



「“なな”なんてどうだ。」

「なな・・・?」

彼女はきょとんとして俺を見つめた。
「気に入らねえなら他に・・・。」

「なな!あにきがくれた、なまえ!」

“なな”は気に入ったらしく、尾ひれで船内を跳ね回った。



名前なんて付けちまったら、ますます情が沸いちまうんじゃねえか・・・?
・・・いや、無えなさすがに。こいつは魚だし。


だから、“仲間”以上にはならねえと誓える。


きっと、どれだけ傍にいても・・・・・・。



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あきゅろす。
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