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028. 傷痕
「ッ!」
出来たばかりの傷痕を少し強めに押され、思わずうめき声が漏れた。
「神田、痛い」
非難するように、じとりと睨み付けた。
「うっせ、我慢しろ」
眉間にシワを寄せ傷痕にこれでもか、と消毒液を塗り込んでくれる。
「ギャー!痛い痛いッッ!もう少し丁寧にしてくださいよ!!」
じんじんと滲みる痛みに顔を歪ませ思わず叫ぶと、我慢しろ、と切り捨てられた。
コノヤロウッッ!と口にだしたらまた消毒液を塗り込まれかねないので、心の中で罵りを繰り返した。
なんでこうなるかな、と溜息をつき先程の出来事を思い出す。
孤児院でのレベル4との戦い後日、怪我の為湯舟には浸かれないが、汗や埃でベタベタのままでいるのが気持ち悪く、タオルで体だけでも拭こう、と浴場にいった。
までは良かったのだが、がらりと脱衣所に繋がる扉を開けたら目の前に神田がいた。
僕と同じことを思ったのか、神田も濡れたタオルを手に上半身を拭いてる最中で。
なんだか、いろいろあったからちょっと顔を合わせづらかったのに、こんな所で出会ってしまうとは…。
いきなりきびすを返すのもあまりにも不自然だ。
「おい、ヒョロモヤシ、んなとこいたら邪魔だ」
「だれが、ヒョロモヤシですか?!このワカメ!」
入口で悩んでいたのもつかの間、神田の一言から、何時もの言い争い、そして怪我人同士にもかかわらず殴り合いに迄発展してしまった。
その騒ぎを聞き付けたラビが二人を仲裁し、外にいたリナリーが傷だらけの二人を見て一言。
「神田、アレン君の怪我きちんと消毒しなさい」
とにっこりと微笑んで言った。(命令ともいう)
神田は苦虫をかみつぶしたような表情をした後、アレンの腕を引っ張り誰もいない医務室へと来たのだ。
正直リナリーの一言があったとはいえ、ちゃんと消毒する(乱暴だけど)神田が信じられない。
アレンはアルコール綿花を傷口にあてる神田を盗み見る。
伏せた瞳を長く艶やかな睫毛が縁取り、癖のない髪はさらりと流れ落ちる。
(本当に黙っていれば完璧なんだよなぁ)
その美しさにしげしげ魅入っていると、その柳眉が歪められた。
「ここ…」
すっと撫でるように触られたのは退魔の剣(クラウン・クラウン)で出来た傷痕。
「あ…」
どうしていいかわからず、小さな呟きが漏れた。
戸惑っている間も、神田の節だった手は今まで出来た傷痕を確かめるように、慰めるように優しく辿る。
その手つきの優しさに思わず泣きそうになった。
なんで、この人はこんなにも不器用で、………優しいんだろう。
お互い何も語らず静かな空間に器具の金属音だけが響く。
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