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025. 翼



大切な、大切な一枚の羽。

アレンは引き出しから大きく白い羽を取り出し、小さく口づけると、行ってきます、とその羽に微笑みながら言った。

丁寧に仕舞った後急いで側にある鞄を手に取り家を飛び出した。

毎朝の習慣となっているその行為だが今朝は少しだけ違った。なぜなら。

「今日は久々に彼の夢を見れた!良い事あるかな」

息を弾ませ嬉しそうに頬を緩ませながら少年は学校へと続く道を走った。


アレンがこの街に越してくる十年前、近くの森で遊ぶのが日課となっていた。その森はまだ未開拓のままで美しい木々や光が溢れており、迷子にならないよう印しを付けたりしながらいつも遊んでいたのだが…。

その日は珍しい蝶を見つけ、印しを付けるのも忘れアレンは森の奥深くまで迷い込んでしまったのだ。ずっと追い掛けていた蝶はいつの間にか消えてしまい、辺りは美しい森から恐怖の静寂へと姿を変えた。

どこを見渡しても変わることのない景色にアレンは途方にくれ膝を抱えて泣き出した。

どれくらいそのままでいたのか。昼をまわったのかお腹も空いて来て、このままここで死んでしまうのかと恐怖は増し、瞳に浮かぶ涙が量を増そうとした時。

「さっきから、ピーピーとうるせェ」

前触れもなく頭上から降りた声に、ビクリッと体を震わせ、そろそろと声のした後ろを向いた。

「ーッ!天使?!」

思わず息を飲んだ。
視界に最初に飛び込んで来たのは真っ白く大きな翼。
それを背に持つ彼はお伽話の本で見る天使とは違い、長く美しい黒髪を頭上で一つにくくり、服も白くゆったりしたものではなく黒生地のしっかりした戦闘服のようなもので、背にある翼さえなければ、彼を天使等とは思わなかったに違いない。
なにより『天使』というには彼の表情は厳しかった。
しかし均整の取れたそれはアレンの胸を掴むには充分で、ぽかん、と見ることしか出来ずにいると、舌打ちをされた。

「おい、ガキ」
「は、はいッ!」

不機嫌そうな声に身をすくませながらも素直に返事をした。
うぅ…天使ってもっと優しいんじゃないの?

「さっきから何泣いてるんだ?」

その問いに今までの事を話す。話終えたと同時に呆れたように溜息を吐かれた。

「…仕方ねェな」

呟くと同時、その青年はアレンをひょいっと両腕に抱えた。
一瞬何が起こったのか分からず目を白黒させていると、彼の翼が大きく広がったのが見え、次の瞬間には、ふわっと体が浮くのを感じた。

「うわぁぁぁ〜!凄い凄い!」

嬉しさに声を弾ませた。何せ今自分は空を飛んでいるのだ。先程までいた森はぐんぐん遠ざかり空が近くなる。

「そんなに嬉しいか?」
「はい!」

満面の笑顔で答えると青年はどこか嬉しそうな雰囲気を纏い、じゃもう少しだけ飛んでやる、と言いアレンを抱えたままさらに飛んでくれた。





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