消失少女
朔の夜
名前は浅葱。それ以外わからない…。
親の顔も、生まれ育った場所も、ついさっきまでどこにいたかも…目を覚ました私は真っ暗な場所にいた。時折揺れ外から声が聞こえてきてからここは駕籠の中だってことに気づいた。
でもなぜ?なぜ私は今ここにいるの?
ドサッ…。
揺れが収まりやっと地面に駕籠がおかれた。
「よし、ちょっくら休むかぁ…。にしたって俺ら運がいいなぁ!!」
「ああ!このまま女衒に渡しちまえばしばらく遊んで暮らせるぜ!」
イヒヒヒ…と下品な笑い声が聞こえ浅葱は思わず身震いをした。
え……人売り…?このままじゃ私は記憶がないまま女郎として生きるの…?
「なぁ、喜助。おらぁちょっくら食いモンかってくらぁ。逃すなよ。」
「あたりめぇだ。俺のも頼んだぞ。」
1人何処かへ行った…さっきの会話からして人数は2人。あとの1人から逃げなきゃ…!!
どうしよう…どうしようどうしよう…!!
焦るばかりでまったく考えが浮かばない。頬から冷や汗が伝ってきた。
でもこの焦り。前にもこんなことあったような…なんだか
「なつかしい…?」
「ん??」
思わず出てしまった声が大きく見張りに勘付かれてしまった。
突然差し込んで来た光に目を細めなんとか光の方を見ると男が汚い笑みを浮かべていた。
「なァんだ…目が覚めちまったのか。」
狭いのは今のうちだと言いながら再び簾を下げようとする男にチャンスを逃してしまうという焦りから咄嗟に待って!と叫んでしまった。
やってしまった…と後悔したけど男の手は止まった。
「お兄さん…ずっと狭い籠の中にいたんですもの。足が痛むの……」
勝手に思いついた言葉だった。
縄でこすれて痛むのを気にせず身動いでなんとか着物をはだけさせ涙目で訴えた。
「さすってくださいな。」
ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
「はぁはぁはぁ……助かった…」
あのあとどう逃げてきたかはっきりわからない。
手がジンジンするから多分力一杯抵抗したんだろう。
悪運が強いのか当たり屋とトラブルにあったけどお巡りさんに助けてもらい更に仕事まで紹介してくれた。
ここどうする?
改装変にしてしまうか消去か。
「あっ!すみませ…」
「いってーな…何してくれてるんだよ!」
「本当にすみません。」
「謝って済むなら奉行所なんて必要ねぇんだよ。さぁ、どうしてくれるんだ?」
「兄貴にぶつかったんだ!慰謝料ぐらい
出せこのアマ!!」
また厄介な人に捕まっちゃったな…
「慰謝料って…!アンタ怪我してないじゃない!」
「うるせえ!それ以上ガタガタ抜かすんなら売っぱらってやる!」
「いやっ!」
行く当てもないし捕まるならもう諦めた方がいいかと思った時、
「はーい。そこまででさァ。」
「なんだテメェ…。」
「慰謝料出せばボコボコにしていいんですかィ?丁度いいや、少しイライラしててねィ」
「ひ、ヒィッ………!」
「やだなぁ…今のはただの脅しですぜィ。
で、良いんですかィ?殴って。」
「チッ…覚えてろよ!!」
ありきたりなセリフを吐いて当たり屋は一目散に逃げていった。
「ダセーや。」
「あ、あの…。助けていただきありがとうございました。」
「別にただイライラして……ッッ!!」
目の前の男の子は私を見て驚いていた。そんなに私の姿がみすぼらしいのかな?
「…ど、どうかなさいましたか?」
「あの……。」
「い、いや……なんでもありやせん。
怪我は?」
「平気です。ありがとうございました。」
「時雨…?」
「え…?」
「お前…時雨なのか?」
「 ……。」
「覚えて…ないんです…。何も……」
「じゃあどうして…?」
「逃げてきたんです真っ暗な場所から…。」
「あっ…助けてくださってありがとうございました。これで失礼します。」
「待ちなせェ。」
呼び止めてきたその人の表情はわからない。
「なんですか?」
今度はどこへ連れて行かれるのかな…。
「うちに…屯所に来な。」
朔の夜から新月へ
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