消失少女
疑心暗鬼
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「そのだな、総悟…。あの子は……一体…」
客間から出た後、近藤さんは戸惑いの表情を浮かべ俺に耳打ちした。
「記憶がないんでさァ。もしかしたら....」
「期待すんじゃねェ。」
背後から煙草を吹かした土方さんが来た。
今朝のこともあり、あまり良い気はしないが。
「時雨にもあの女にもいい迷惑だ。いつまでも引きずって仕事にも支障をきたすな。」
「トシ……。」
近藤さんは眉を下げ土方を見つめた。
「近藤さん。アンタも言うこと言わねーと何も変わりゃしないぜ。」
何を言われるなんてわかってる。真っ正面からそれを言われて表情に出さないようにする自信がないから俺は俯いて次の言葉を待った。
「総悟……あの子の行き先はあるのか?なかったらここで働かないか話しておいてくれ。」
「はぁ!?言うことそこォ!?」
やっぱりわからなかった。
でも
「へい。早速聞いてきやす!」
近藤さんの言ってくれたことが嬉しかった。
沖田は駆け足でその場を去っていった。
久しぶりにあいつ少し笑ったな…と、土方はもういなくなった沖田の方を見ながら呟いた。
だが……と土方が続けた。
「今隊士は久遠の仇、敵への同胞を殺された憎しみで士気が上がっていると言っても過言じゃねェ…。」
その言葉に近藤は眉を顰めた。
「そこにあいつそっくりな奴があらわれりゃ隊士らの集中力が切れてしまいかねない。」
近藤が重々しく口を開いた。
「トシ…確かに時雨が亡くなったことに憎しみを抱いた隊士がいるのは知ってる。だが、簡単に乱れるほどのものではないだろう…大丈夫だ。お前が思うより隊士たちは強い。」
「そうか…」
「それに行き場のない女性をそのまま出すのも酷だろう。」
そこまで話してからやっとの事で息を吐き、近藤は土方から顔をそらした。
「…確かに時雨は死んだ。でも、俺もその可能性を信じてみたいとどこかで思ってるんだ……。」
近藤さんが掠れた声で言った。
「近藤さん…。」
近藤さんも苦しいのも俺は十分わかっていた。妹のように可愛がっていた久遠が爆死。
あれ以降あの道場へストーキングする数も減っていたしよく遠くを見るようになった。それにいつもは無かった弱音を吐くことが時々あった。
「…俺は客間に戻る。トシはどうする?」
先ほどと変わり普段と同じ近藤さんに戻った。
「俺は部屋に戻る。終わっていない書類が残ってるんだ。さっきはタバコを買いに通りかかっただけだ。」
そう言うと土方は来た道を戻っていった。
「金を持たずにか…?」
と、近藤はもう誰もいなくなった廊下で呟き客間へ戻った。
疑心暗鬼
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