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ララバイを君と(サカイ)


(…んな目でみんなよな)

佐原は雨が降る中バイトへ向かっていると、売地の前に放置されている段ボール箱に気付いた。

中身を見たのが間違いだった…


「クゥ〜ン」


中には、捨てられたのだろう一匹の子犬が寒そうに蹲まっており、佐原に気づくと、立ち上がり弱々しそうに尻尾を振ってすがる様に鳴いてきたのだ。

(ハア…誰だよこんなとこに捨てやがった野郎は…おまけにこのシチュレーション)

「キャンッキャン!」

じっと自分を見つめる目が誰かに似ているな…なんて思いながら暫く動けないでいたが、バイトの時間が迫っているのを思いだして慌てて走り出した。

子犬を残して。


(ハクジョー者でごめんな)

どうすることもできないと、言い訳をしながらもあの、繕われものじゃない純粋な瞳の残像が胸をキリキリ苦しめる。


「店長ーおはようございま…」
店長の怒声に、声を潜めて近付く。

(カイジさん?)


「だからお前はなー…あーん?聞いてんのか」

「…」

店長は、何も言わないカイジにワナワナと口元を歪めると、机に拳を叩き付け罵声を浴びせ始めた。

「馬鹿にしてんの…「おはようございます!!店長、カイジさん」


見かねた佐原は、扉を勢い良く開き張り詰めた空気を一掃するように笑顔を造る。


「すみません店長ちょっと遅れちゃいました」

「あ…ああもう時間か。気を付けてくれよ佐原ッ!どいつもこいつも…」


「カイジさん仕事戻ろ」

「ぁ…」

佐原はカイジの腕を掴むと、逃げる様に客の少ない店内に連れ出した。

「あんなバカ店の嫌味なんかテキトーにかわしてればイイんすよ」
「…オレはお前みたいにはいかない」

「…」

「その方が楽だから。構わないでくれ」

でも交わされた眼は言葉とは裏腹に切なげに揺れているようで放って置けない。損しながら孤独に、一匹狼みたいに生きるカイジさん。

好きでもない奴に作り笑いでご機嫌取り、仮面を被るように生きている自分とは違う…



気になる

惹かれている…

この人に、自分は。


(どうするオレ?)


帰りに飲みにでも誘おうかなどとぼんやり考えていたら、無意識に言葉が溢れた。

「カイジさん…」


「?カイジさんならほんのちょっと前に帰ったわよ」

一緒にレジに立っていた西尾の言葉に時計を見ると、シフト終了時間が少し過ぎていた。


佐原はまだ止んでいなかった雨の中、傘を伝う雨粒が滑り落ちるのを視界の中に映しながら歩く。

留めなく流れる水に、ふと手をかざすと指の間からそれは流れてゆく。

求めても掌から溢れ落ちる

受け止めてもいつの間にか無くなっている


「あれ?」


今朝の空き地のダンボールの前にしゃがみこむ人影は、紛れもなく佐原の頭を支配している人物。

後ろから近付くと、その腕には子犬を抱き締めるように抱えている。

(死んでる…)

ピクリとも動かない小さな体を見て胸の痛みが蘇るが、それより…悲しげな眼をしたカイジさんに


ズキリと広がる痛み。


「!だれ…佐原?」

「ごめん…ごめんねカイジさん」
「何でお前が謝るんだよ?」


「朝、こいつオレに尻尾振ってさ…でも見捨てたんだ。逃げてきた。だからごめん」

悲しい顔させちゃってごめん

「あほ。どうにもならねえことばっかりじゃねえか…だから謝るな」

負け犬…あがくように生きて、たまに同情されても、無関心に去ってゆく沢山の足。他人がのたれ死のうと関係無い。非力。無力。どこか自分にいい聞かせるように。


「ただのエゴだけど、最後くらい…こうしてやるくらいしか出来ねえから」


眼を瞑る、あたたかい表情。もっといっぱいいろんな顔がみたいと思った。

「埋めてやろうか」


「ああ…」


いくら手のひらからすり抜けようが、きっと君を手に入れて守ってみせようと誓った


いつか、君に捧げる歌を歌いたいよ


だから今は、子守り歌を君と。



END

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あきゅろす。
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