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たまごなおはなし
秋学のすすめ
夏の後の冬の前。その短い季節を秋と決めたのは誰だろう。

ふと、そう思った。


「朝晩冷えるね。」

そんな挨拶が何処からも聞こえるようなひんやりした空気が冬を予感させるんだ。そして何だかワクワクしてくるのは何故だろう。コオロギの声も耳を澄ませないと聞こえてこない都会だけれど、街の中にある草むらには身を潜めている虫たちの存在を僕は知っている。色んな虫たちの音色に気が付いてるけれど捕まえない。それは彼らにとって一番大事な季節だから。

スーっと冷えた黄昏時の空気を胸に染みこませて、改めたように秋を感じて、冬の訪れをちょっと楽しみにしておくんだ。それが秋の楽しみ方だと勝手に思い込んでたりする。


「パパぁ、半分だけ緑の紅葉だよー。」
「ホントだね、半分だけ衣替えしててきれいだね。意外と紅葉さんはお洒落なんだネ。」
「だねぇ。」

娘の小さなお手ての中にある半分だけ緑の紅葉は、恥しいのか吹き抜けた風に乗ってどこかへ旅立ってしまった。その紅葉が飛んでいった方向を見ていたら、ぽとりと何かが地面に落ちた。

「あー、ドングリさんだぁ。」
娘は急ぎ足でドングリを拾いに行った。誰も奪わないのに、それはそれは大急ぎでね。
「パパ、おっきいドングリだよー。」
「本当だね。おっきいなぁ。」
丸々と太ったそのドングリは、秋がいっぱい詰っているんだろうな。コロコロと娘の手の平で転がりながら、足元の柔らかい地面に潜りたそうだったから、
「埋めようか?」
「えー、埋めるの?」
「うん、そしたらね、またドングリの芽がでてさ、ここはドングリの森になるぞー。それってワクワクしないかい?」
「ええー、ここがドングリの森になるのー?」
もう娘のワクワクは笑顔以上に溢れていて、
「じゃ、埋めちゃう?」
「埋めちゃうー!」


本当はココがドングリの森になるのはすごく先の未来の話なんだけどね、きっと森の生き物たちが沢山訪れる憩いの森になるだろう。小さな娘の手がそれを期待しながら穴を掘っているんだから。

やがて紅葉は全て秋色に染まり、ドングリはあちこちに転がって土に眠るんだ。そうやって季節は巡り、一年が過ぎてゆくんだよね。それがちゃんと繰り返してくれればいいのにって、親のボクは森になっている未来を楽しみにしながら願うんだ。


色んな秋があるけれど、こんな風に親子でワクワクしながら探す秋もいいもんだ。次の季節にも何かと出会うんだろうけど、今は過ぎ行く秋を楽しんでいたい。


2009/10/14 作


コメント
子どもと遊んだ秋がちょっと懐かしいなぁぁ。
ドングリを山ほど拾ったりしたんだよねぇ。

ああ、次は孫と遊ぶしかないかぁ アハハハ


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