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たまごなおはなし
逆上がり
体育の時間が大好きだ。でも、問題なのは、このスーパーな俺でも苦手なモノがある。それは逆上がり。別に逆上がりが出来なくても大人になれそうな気がするんだけど、何故か、居残りさせてまで逆上がりをさせたがる先生の本心が分からない。
人間、努力したって無理なものは無理だということもあるんだ。そこんとこを先生は、大人のくせに知らないんだ。
「さ、今日も居残り組は放課後鉄棒の前に集合なぁ。」
くっそ、何が鉄棒の前に集合だってんだよ。出来ないものは出来ないんだよ。
そして放課後、やけに張り切った先生と、あー、ヤダヤダって顔の四人の男女と俺。逆上がりで俺の貴重な放課後タイムを無駄にするなんて、ヤダヤダ。
「おいおい、そんなあからさまに嫌な顔するなよー。逆上がりができたら世界が変わるから。」
逆上がりで世界が変わるなんて幼稚なことをいう大人だ。
五人は蹴り台を倉庫から出してきて、鉄棒のところに持ってきて、うんしょうんしょと踏ん張った。でも、出来ない。体が半分取り残されて鉄棒には寄り付こうともせず、鉄棒に嫌われてるとしか思えない。
「あのさ、逆上がりってさ、重力に逆らってるんだよな。それって凄いと思わないか?地球の引力に逆らって、一瞬、自分の体を無重力にさせてるんだ。それってさぁ、なんだか凄いと思わないか?」
「別にぃ。重力に逆らってみたくないしぃ。」
女子の一人が嫌そうに答えたけど、俺ってば、うかつにも先生の言葉に感動してた。だってさ、一瞬の無重力を自分で作れるんだぜ。凄いよな。
もう、何回も鉄棒と戦っていて、お腹の肉が痛いよ限界だー。って叫んでるけど、俺はさ、その一瞬の無重力をぜひとも体感したくてさ、クタクタだったけどさ、後一回だけ。って気持ちで蹴り台を思いっきり蹴って、両腕をぐっと引き寄せたら、
「うわぁー、地球が回ってるよー。」
初めて逆上がりに成功して、ぐるんと回った運動場は、まるで宇宙みたいに感じたんだ。そして、一瞬の無重力を体験した。
「先生!先生!すげー、体がさ、体がさ、ふわって浮いたよー。」
「どうだ、無重力の世界は。」
「うん!感動もんだった。」
今、先生の顔と俺の顔はきっと同じで、逆上がりが成功した奴にしかわからないこの快感。俺の出来ないことが一つ減った喜びを、もっと誰かに言いたい気分。
俺の顔を見た他の子らは、急に目がキラキラしたかと思ったら、さっきよりもっともっと蹴りあげて、一人、また一人と逆上がりが出来て、一瞬の無重力を体験していた。
ヤダヤダと顔に出して先生の言葉に反発していた女子も、最後の一人が出来るまで、見ている俺たちは、何故か力いっぱい応援してた。
ただ、世界がぐるっと回って、体がほんの一瞬浮いて、別に何の役にも立たない逆上がりだけど、そうだな、大人になったらしないかもしれないけどさ、俺はさ、やっぱ世界が変わる瞬間を体験できて、逆上がりもすてたもんじゃないよな。って思ったんだ。


2007/9/5 作

《コメント》
やれば出来ることなんて沢山あるんだから、出来ないと諦めるなら、後一回だけでもチャレンジしてみようよ。
世界が変わるかもよー。


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