たまごなおはなし ボクらは友達 今日、東京から転校生が来た。みんなはそわそわしとる。 「なぁなぁ、東京ってどんなところなん?」 知っとるくせに聞いたるなや。 「なぁなぁ、東京の地下鉄って迷路なんやって?」 アホ!大阪も迷路やっちゅう話しや。 みんな転校生にやたらとかまうけど、はよ仲良くしたいからやねん。せやから、質問攻めにして、話やすいようにしてるんや。 でもな、そんなに次から次に質問したら・・・ ほら、見てみぃ、困ってるやんか。しゃーないな、ボクが何とかしたろか。 「一個づつ聞いたらな、困ってるやんか。お前ら落ち着けよ。」 と、さり気なく転校生の一番近くに来たった。 「なっ、放課後一緒に遊ぼうや。ええか?」 「うん。」 「よっしゃ!ほんならボクがこの町案内したるわ。」 「ええ〜、お前が案内したら、裏道ばっか覚えてまうやんか。」 「なんでやねん。表通りはほっといても、覚えるっちゅうねん。」 「せやったら、俺も一緒に行くで。」 「うちらも一緒に行くわ〜。なんか、めっちゃワクワクするもん。」 「アホ〜、ワクワクって、冒険ちゃうっちゅうねん。」 「いや〜、東京者には冒険と同じちゃうか?」 「あはは、言えてるわ。」 「何だかテレビで観る漫才みたいだね。」 ポツリと転校生が言った。 みんなキョトンとしてしまったんやけど、全員大声で笑い出して、 「大阪の子はな、みんな生まれた時からこの調子やって。」 「産声なんか、「なんでやねん」やで〜。」 「アホか。生まれてすぐに言葉しゃべるかいな。」 「うちのお母ちゃんがな、大阪の子は口から生まれて来る。って言うねんで。」 「せやからお前の口はとんがってんやな。」 「なんやて〜、もういっぺん言うてみぃ。マジでしばいたる!」 「おお怖っ。大阪の女は子供ん時から鬼婆や。」 「覚悟は出来てるねんな。」 「何の覚悟かわかりませ〜ん。」 途端に教室から飛び出して、転校生を町の中に連れ出したんや。 転校生は、ボクらの会話のテンポについてこれんようやったけど、別に気にしてへんみたいやから、ボクらはいつも通りのボクらで、この町の裏道を案内したってん。 走らんでいいのに、ハァハァ息を切りながら走って案内してん。転校生は細っこいけど、ボクらの後を笑いながら着いて来る。せやから、みんな、こいつなかなかやるやん。って思ったんや。 「で、ここが松下ショップで、お菓子はここで買うんやで。オバちゃんがマケてくれるから。」 「わかった。ここなら、ボクの家にも近いし、みんなとここで買う。」 ボクらが勝手に決めつけたのに、嫌な顔ひとつせんと、ボクらとここでお菓子を買うって言うてくれた。なんか、嬉しかった。 「オバちゃ〜ん、この子、今日転校してきてん。これからお菓子買いに来るから、ちゃんとマケたってや〜。」 「はいはい。あんたらには負けるわ。」 「ええやん、顧客が増えるんやで、商売繁盛やん。」 「マケてばっかりで、商売あがったりやわ。」 「またまた〜儲けてるくせに。」 「アホなこと言うてんと、はよ帰り。もう五時回ってるで。」 「うっそ、マジ?みんな急いで帰るで〜。」 「うん、また明日〜。」 「宿題しろよ〜」 「歯磨きしろよ〜」 ボクらの会話のやり取りに、転校生はケラケラと笑いだして、 「ボク、大阪に来れてよかった。こんな楽しいなんて思ってなかった。」 すると、松下ショップのオバちゃんが店から出てきて、 「ちょっと、ええかげんに帰りや。家の人心配すんで。」 「はーい。オバちゃんまた明日〜。」 オバちゃんに見送られて、ボクらはそれぞれ家に向かって帰った。ボクは偶然、転校生と同じ方向やったから、途中まで一緒に帰った。 「ボク、本当は転校したくなかったんだ。友達と別れるのが嫌だったし、大阪のこと良く知らないし・・・・でも、」 転校生はボクの前に立って、 「でも、来て良かった。本当に来て良かった。」 なんか泣きそうな顔で、笑うから、 「お前はもう友達やん。向こうの友達はいつまでも友達や。でも、今日から、ボクらも友達や。ようこそ大阪へ、ってか〜。」 ボクは新しい友達のランドセルをポンと叩いて、先に走って帰った。 2006/6/29 作 [前へ][次へ] [戻る] |