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たまごなおはなし
ようこそ にぎやか町へ
夕方になると、
学校から帰ってきた子供らで、
この町は、ちょっとさわがしくなる。
ううん。ホントは朝も昼もガサガサしてる。
通りは、車が一台くらいしか通られへん道で、
おんぼろの家ばっかり並ぶ道で、
この町は夜までガサガサしてる。
それが当たり前の町内や。
「おはようさん。今日もええ天気やね。」
「おはよー。今日も洗濯いっぱいあるわ。」
「あんたら、早くごはん食べやー。」
こんな声が町の中で飛び交う。
生まれたときから、ずっとこの町やから、
誰の声か分かる。
「昨日みたいに忘れ物しなやー。」
この声は、田中のお母さんの声。
「おはよう。今日は朝市に行くん?」
この声は角の橋本のおばちゃんや。
「いってきまーす。」
「気ーつけて行きやー。」
あ、浜田が学校に行くわ。ボクも早よせな。
「早くしーや。じゅんちゃん待ってるで。」
「聞こえてたから分かってる。」
ボクはおおあわてで支度して、
ランドセルをひょいとかついで、飛び出した。
「ちょっとー、クツのかかと踏んでるでー、
ちゃんとクツくらいはきなさいよー。」
「はいはーい。」
「はい。は1回でええの。」
「はーい。」
走って家を出て、浜田の待ってる場所に向かった。
「おは。クツのかかと踏むなよ。」
「うるさい。もう踏んでへん。」
「あははは。お前のお母ちゃんって、
 いつも朝から元気やな。」
「ほっといてくれ。浜田んとこんも、
 朝から、えらい大声出せるな。感心するわ。」
「お互い、さわがしいお母ちゃんやな。」
「ホンマや。」
でも、この町はにぎやかが似合ってる。
後ろから、田中が走ってきて、
「前田、ちょっと待ってや。」
「田中が遅いねん。」
「でも、ちょっとくらい待ってーや。」
「はいはい。」
「前田、はい。は1回でええねんで。」
「うるさいって。」
ボクらは、そこから走って学校に行った。
キーン、コーン、カーン、コーン
学校のチャイムが鳴った。
「ギリギリやったな。」
「そうやな。」
「そうでもないで、今日は月曜やし・・・」
浜田がそう言うて、ボクらは声をそろえた。
「全校集会!」
「急げー。」
廊下を走って、教室にランドセルを置いて、
また走って、講堂に行く。
バタバタと学校の一日が終わった。
帰りも浜田といっしょに帰ることにした。
「なぁ、ふみ切りんとこから帰る?」
「うん。電車見よか。」
通学路から少し外れるんやけど、
たまに、寄り道して帰ってる。
「1回でええから、一日中電車乗っときたいわ。」
「一日中は乗りすぎやろ。あきるで。」
「そうかな?」
家と家の間を通るように、線路があって、
家と家の間の細い道から、電車を見る。
小さい、短い遮断機があって、
そこから、走って来る電車を見ると、
風がビューと聞こえるのと、線路のきしむ音が重なる。
けっこう、迫力があっておもしろい。
電車が三台通ったとき、後ろから、
「こら!ここ通学路ちゃうで。」
って注意されて、おどろいてふり向くと、
そこには自転車屋のおばちゃんがおった。
「もーびっくりするやん。」
「あはは。びっくりした?」
「子供おどろかしてええんか?」
「あっそ。じゃあお母ちゃんに言うたろ。」
「それは勘弁して。」
ボクらは自転車屋のおばちゃんと、
ふみ切りを渡って話しながら帰った。
この町の人たちはおせっかい者が多い。
子供が悪さしてたり、寄り道してるのみつけたら、
必ず大人は、声をかけてくる。
どうやら、ほっとかれへんみたいや。
だから、寄り道も気を抜いたら見つかる。
家が見えてきたら、
「お帰りー。いつもより遅いんちゃうかー。」
近所のおばちゃんが、嫌味を言うてくる。
「ただいまー。」
たとえ近所のおばちゃんでも、
ちゃんと挨拶するねん。
お母ちゃんが、いっつも言うねん。
「あいさつは近所付き合いの基本やで。」
基本やからな、挨拶は大事や。
「たっくん、じゅんちゃん、お帰りー。」
二階の窓から、田中のおばちゃんが大きな声で言う。
「ただいまー。」
この呼び名はやめてほしい。
五年生やし、もうすぐ六年生やのに、
大声で呼ばれたらはずかしいやん。
「なあー、うちの子はどないしたん?」
「先生の手伝いで残ってる。」
「そうなんや。ありがと。」
「はーい。」
狭い道は、何でも聞こえてしまうから、
時々、もっと小さな声で話してや!
って、思うのはボクだけなんかな?
だってなぁ、おこられてることも、
おこられて泣いたことも、
近所の人たちはみんな知ってるんや。
「昨日、おこられとったな。」
って、ぜったいに言われるねんで。
ボクのプライバシーは、無いんやで。
でも、いやじゃない。キライじゃない。
言われるのは、はずかしいで、
でもな、ボクの家のことが聞こえるってことは、
ボクも、他の家のこと聞こえてる分けやから、
お互い様やねん。
だから、気にしとったらアホらしい。
こんな狭い道をはさんで、
古い家がぎっしり建ってるんやから、
聞こえて当然。仕方ないことや。
さてと、宿題でもするかな。
「おーい。たっくん。遊ぼうー。」
その呼び名はやめてくれって。
窓から顔を出してみると、
浜田が何人か連れて来てた。
「今、行くわー。」
宿題はあとでしよかな。
「いってきまーす。」
「宿題してへんのやから、
 暗くなる前に帰ってきなさいよ。」
「はいはい。」
「はい。は1回でええの!」
「はい。」
ボクらはダーッと走り出した。
「子供らが帰ってきたら、
 いっぺんに、にぎやかになるねー。」
「ホンマやわ。夕方が一番にぎやかやね。」
おばちゃん達は、井戸端会議をしてた。
「そんなに走っとったら、こけるでー。」
「大丈夫やってー。」
おっちゃんとかにも声をかけられる。
この町には、広場とかないし、
公園も少ないから、
遊び場所は決まってなくて、
町の中の路地で遊ぶことが多い。
かくれんぼするのには、ここは最高やで。
逃げるときも、スッと別の場所に行けるんや。
道と道の間が狭いから、
シュッと行けるからやねん。
たまに、自転車で走るんやけど、
どっから人が出てくるか分からんからな、
右見て、左見て、また右見る。
そんな交通ルールが身についてるねん。
大通りに出ても、同じこと出来るで。
どんだけ見通しがええとこでも、
このルールはくせになってるからな、
ちゃんと、左右の確認はしてる。
大人たちは、
「ええことや。当たり前やけどな。」
って言うだけで、ほめてくれへん。
「なぁ、浜田。」
「なんや?」
「たっくん。って呼ぶのやめてくれや。」
「そんなん言うたって、お母ちゃんがな、
 『赤ちゃんのころからの付き合いで、
 何で、今さら苗字で呼び合うの?
 なんか、かっこつけてるみたいやで。』
 って言うから、近所では、
 昔からの呼び方で呼ばんと、
 また言われるやろ?」
「そやな。ボクんとこも同じこと言うてたわ。」
「まぁええやん。気にせんでもな。」
「そやな。」
ボクらはみんな、暗くなるまで遊んだ。
ヘトヘトになって帰ったら、
「もう真っ暗やんか!
 暗くなる前に帰って来なさいって言うたでしょ!」
おこられた。ボクだけじゃないで、みんなや。
色んな家から、おこられてる声がするもん。
ああ、明日は近所の人に言われるわ。
「遅くまで遊んでたんやってー。」
「みんなおこられとったなぁ。」
ぜったい、朝から言われるわ。
でも、いやじゃない。気にならへん。
だって、いつものことやからな。
そうでなくっちゃ、この町じゃないやん。
夕方になると、子供たちでさわがしくなるけど、
ホンマは朝から元気で、にぎやかやねん。
ちょっと、そこの路地入ってみてや、
ボクらの町が見えてくるで。
井戸端会議のおばちゃんとか気にせんといてな。
朝からにぎやかなこの町に来てみてや。

2005/10/02 作


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