テニスの王子様
おつかいへ出された
「え…?不動峰、ですか?」
昼休み、榊先生に呼ばれて職員室に行くと、分厚い封筒とSuicaを渡された。
ペンギン可愛いとか一枚欲しいとか、思ってる場合じゃない。
「何で私ですか?」
「秋山は我がテニス部のマネージャーだろう。」
「…それとこれとどういう関係が…。」
「不動峰中テニス部への通達事項だ。急ぎの用件なので今日中に届けたいのだが、生憎私はこれから会議があり抜けられない。」
「…そうですか。解りました、行ってきます。」
私は分厚い封筒を持って職員室を出た。
何でおつかいに行かないとならないのだろうか。
いや、だからって選手にさせることじゃないけど…。
マネってそういうこともするのか?
あ、でも不動峰ってことは杏ちゃんに会えるんだ!
私はさっきまでの鬱々気分も何処へやら。
意気揚々と駅へ向かった。
件名:杏ちゃんへ
――――――――――
香澄です。
今日野暮用でそっちに
行きます(^^)
時間あったら話しよう
ね〜(^^)/
「送信、っと…。」
しばらくして、杏ちゃんから返信があった。
件名:杏です
――――――――――
本当?!
土曜日振りだね!
私はいつでもOKだから
香澄ちゃんの
都合の良い時で良いよ
(o^-^o)
杏ちゃんっていい子。
しっかり者だし気配り出来るし。
私はインターネットで引っ張った地図を頼りに不動峰へと向かった。
案外近くにあった不動峰。
あまりキョドってるのも不信人物丸出しなので(前回の青学訪問で嫌というほど思い知った)今日は極自然に敷地内へ入って行った。
「えと、テニスコートは…。」
学校なんて大体作りは一緒なんだけどやっぱり迷いそう。
意を決して私は再度杏ちゃんへメールした。
ものの数分で杏ちゃんは校舎から出てきてくれた。
「香澄ちゃん、いらっしゃい。」
「杏ちゃん!良かった〜、私結構道に迷うからさ〜。助かります。」
「ふふ、じゃあ案内するね。」
私は杏ちゃんについてテニスコートを目指した。
辿り着いた先で私は唖然とコートを見た。
「…ぅわ…、暑…。」
テニス部員達の着ている黒いユニフォーム。
はっきり言って暑苦しい。
この燦々と降り注ぐ真夏の太陽(暦の上ではまだ夏じゃないけど)の下であんな格好…。
私死ねるわ。
絶対に熱射病になる自信がある。
「お兄ちゃん!」
「…。あぁ、杏か。どうした…?そちらは?」
「氷帝の香澄ちゃん。」
「はじめまして。氷帝2年テニス部マネージャーの秋山香澄です。」
「あぁ、キミが杏が言ってた子か。不動峰中3年テニス部部長の橘桔平だ。」
「よろしくお願いします、橘さん。今日は通達事項があるということで書類を届けに来ました。」
「ありがとう。確かに受け取った。」
優しい、良い兄って感じがする。
杏ちゃんが自慢するのも解るかも。
「杏ちゃん!」
「え?あ、神尾君。」
ひとしきり話が終わった頃、杏ちゃんを呼ぶ声がした。
向かってくるのは黒いジャージを来た男子。
ものすごいスピードに私は目を丸くした。
「神尾」と呼ばれた男子は杏ちゃんしか目に入ってない様子。
失礼極まりないな、この●太郎。
私が視界に入らない程チビだと言いたいのか?
あ、そうか、目が片っぽしかないから見えないんだ。
死角がいっぱいあるんだ。
…そういうことにしとく…。
「?うわっ!ぼやいてるから深司かと思ったぜ…。アンタ誰?」
「…氷帝2年テニス部マネージャー秋山香澄です。」
「俺も2年、神尾アキラ。で、あっちにいるセミロングの奴が、俺が勘違いした伊武深司。」
「ヒトのいないところで勝手に名前教えるなよな。個人情報だろ…。」
インパクトあるヒトだなぁ…。
てゆーか、髪さらさら…。
「?!」
「何してんだ?!」
「え?髪綺麗だなぁ…って。」
頭撫でたの駄目だったかなぁ…?
「いや、だからっていきなり触ったら駄目だろう…。」
「じゃあ断ったらいい?伊武君、髪の毛触らせて。」
「アンタバカじゃないの?初対面なんだから嫌に決まってるだろ?」
「杏ちゃん、そういうもの?」
「うん、そういうものだよ…。香澄ちゃんって変わってるね。」
「あ〜、東京来てからよく言われる。」
「?出身違うの?」
「あれ?言って無かった?私北海道から越してきたんだよ。」
「そうだったんだ!知らなかったよ。」
杏ちゃんと話が咲いて若干部員をそっちのけにしてしまったが彼らは別段気にする風でも無かった。
ブブブブ…
不意にポケットに入れていた携帯のバイブが鳴る。
「?誰だろ?杏ちゃん、ちょっとごめんね。」
「うん、いいよ。」
表示は「跡部景吾」。
「げ。跡部さんからだ…もしも」
『香澄!てめえ今一体何処にいやがる!』
通話ボタンを押した途端に跡部さんの不機嫌な怒声が耳についた。
「怒鳴んないでください。聴こえてますから。今は不動峰にいます。」
『アン?不動峰だ?』
「榊先生に訊いてませんか?急ぎの用で書類を届けに来てるんですけど。」
跡部さんの後ろで何やらざわついているのを聴くと、流石に全体練習を抜けては来れなかったようだ。
所々で「43」とか「あのロリコン」とか聴こえるのは幻聴だと思いたい。
「用件は済んだので今から戻ります。」
『解った。気をつけろよ。』
「……私子どもじゃないんですけど。」
『お前は素直に返事しときゃいいんだよ、アーン?』
「解りました。失礼します。」
電源ボタンを押して通話を切ると、私は杏ちゃんに向き直った。
「杏ちゃんごめんね。うちの俺様部長が早く帰って来いってうるさいから戻るね。」
「うん、仕方ないよね。またお話しようね!」
「うん。それでは不動峰の皆さん、失礼します。」
「ご苦労だった。ありがとう。」
「またな。」
「………。」
「あ、伊武君、髪」
「だから触らせないって言ってるじゃん。」
「ちぇー、じゃあ今度ね。」
「今度も無いから。」
「ケチ。」
名残惜しいながらも私は不動峰を後にした。
戻ったら部員全員に何処か行く時は必ず誰かに行き先を告げるよう釘を刺された。
私は小さい子どもか!
不満たらたらだけどみんな私が“うん”と言わないとすっごく怖い顔してたので頷くしか無かった…。
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あとがき
不動峰出現率高いですよね(笑)
贔屓じゃないんです。
何だか思いのまま書き進めてるからだと思います。
2009*3*20
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