[携帯モード] [URL送信]

テニスの王子様
波乱のオリエンテーション


「香澄、着いたよ。」

桜に揺り起こされて目を擦った。
時計を見やれば小1時間程寝ていたらしい。

「ありがと、桜。」

「よく寝てたね?寝不足?」

「んー、ちょっとね。」

足元に置いた荷物を肩にかけ、私は立ち上がった。
バスのステップを降りると、目の前には非常識な建物。
あれ?
合宿所ってもっとこう…学校の施設っぽいモノじゃないの?

「相変わらず跡部の持ち物は桁が違うな。」

「…、柳先輩、驚いてませんね…。」

「あぁ、跡部とはそういう男だからな。」

さらりと私の疑問はスルーされ、居心地が悪くなり香澄に引っ付いていた。

「よう、やっとお出ましか、立海。王者ともなると平気で重役出勤か?アン?」

前方から偉そうな口調でやって来る男。
何この上から目線。
泣き黒子のくせに。(←偏見)

「遅れてすまなかった。他の学校は既に集まっているのか?」

「いや、千葉の六角が最後だな。」

あんな嫌味な奴に大人の対応。
流石柳先輩。
感心していると急に鋭い視線が向けられた。
先程まで柳先輩と話していた男が値踏みをするようにこちらを凝視している。

「ほぅ…、こいつらが噂のマネージャーか?」

「噂?」

何とも無しにおうむ返しで訊いてみれば、その男は楽しそうに笑った。

「あの王者立海が今まで採らなかったマネージャーを入れたってな。どんな奴かと思えばなかなかの上玉じゃねぇか。」

視線は桜に移っていた。
あぁ、予感的中。
桜は絶対に絡まれると思ったんだ。

「……、何の用だ?チビ。」

桜を庇(かば)うように前に出た私を訝(いぶか)しげに、嘲笑(あざわら)うかのように見下ろしていた。
しかもこの泣き黒子、私のこと“チビ”って言った!
ヒトの気にしてることをズバッと抉(えぐ)ってくれちゃって…!

「桜に触るな!」

「ハッ、威勢だけは一丁前か。」

な、…!
鼻で笑いやがった!

死 ん で し ま え !

詐欺師より嫌な奴がいるなんて……!

「香澄…。」

ワナワナと震える私を心配して桜がそっと肩を掴んだので正気に戻った。

「あ、桜…、大丈夫。」

「跡部、あまりうちのマネージャーに構わないでくれ。」

すかさずフォローに入った柳先輩には感謝しないと。
あのままなら絶対に私何かしてた。
しかも、この偉そうなお方。
施設提供のヒトだったのか…。
道理で上から目線だった訳だ。

「フン、今のところはこれくらいにしてやる。丁度六角も来たみたいだからな。」





テニスコートに集まれば、もうここはアイドル事務所ですかと言わんばかりの顔触れが。
うちの部員達も相当だけど、負けず劣らず美形揃い。
あれか?
テニスやるヒトって美形じゃないと駄目なのか?


…そんな訳ないか。
普通のヒトもいた。
苦労してそう…。

ジャッカル先輩並みに。

「お、可愛い子発見〜!」

背後からした軟派な声にすかさず桜を庇った。

「ありゃ、キミも可愛いね〜。」

話しかけて来たのはオレンジ頭の軽そうな奴。
しかも、私の頭を撫でやがった。

解ってる。
私のポジションは愛玩動物(ペット)並なことを。
だってカフェに来る常連さんには孫とか小動物とかそんな感じだもん。
いや、常連さんはいいんだよ。
だってマジでお祖父ちゃんお祖母ちゃんだもん。
すっごく仲良しだから頭撫でられるのも「可愛い」って言われるのも嬉しいもん。

だけどね?

同年代の奴にそんな風に言われてもちっとも嬉しく無いし、逆に気持ち悪い。
桜目当ての奴がよく言ってた台詞だし。

―可愛いね、妹さん?―

いかにも付け足し。
そういうノリ。
男の言うことなんて絶対に信じない!

「止めて!!」

頭に乗せられた手を勢いよく払い退(の)けた。

「千石さん!何やってるですか!」

千石と呼ばれたオレンジ頭はびっくりしていた。
こんな風に拒絶されたことが無かったのかもしれない。
私の知ったこっちゃ無いけど。

「ごめんな?うちの奴が失礼したみたいで…。」
「大丈夫ですか?」
「千石さん、あちこちでそういうことしちゃいけねーな、いけねーよ。」

騒ぎを見ていた他校のヒト達がどんどん集まって来る。
やだな〜。

あ、ほら、皆が桜を見てる。
うちの部員達だけでも厄介なのに、これ以上桜を好きになる奴が増えたら困る。
曲がりなりにも彼氏がいるって教えてやってもまだ桜にちょっかい出してるし…。

「おやおや、何をそんなに集まってるんだい?そろそろオリエンテーションが始まるからさっさと並ぶんだよ!」

ピンクのジャージを着た年配のヒトが騒ぎを訊いて駆けつけた。
恐らく他校の顧問なんだろう。
人集(ひとだか)りは蜘蛛の子を散らすように退(ひ)けていった。





「……と、言うわけでゴールデンウィークの7日間お互い向上出来るよう研鑽を積むように。ここで、選手のフォローをする各校の生徒を紹介する。各自自己紹介をしなさい。」

選手から向かって左からの紹介となった。

端から順に、青学の竜崎桜乃ちゃん、小坂田朋香ちゃん、堀尾聡史君、加藤勝郎君、水野カツオ君、氷帝の滝萩之介先輩、山吹の壇太一君、不動峰の橘杏先輩。
別にサポーターは必ず各校から出さないとならない訳では無いらしい。

そしていよいよ桜の番。

「えっと、立海大附属中学1年テニス部マネージャーの春日桜です。まだ若輩者ですが、皆さんのお役に立てるよう頑張りますのでよろしくお願いします。」

ここはアイドルのコンサート会場か?
桜の挨拶が終わるなり、野郎共からの歓声が上がった。

あ〜。
うるさい。私、自己紹介しなくて良くない?

「桜、行こ?」

「え?香澄まだ自己紹介終わって無いよ?」

「必要無くない?皆桜がいればいいみたいだし。」

「でも…。」

もう、桜は真面目なんだから…。
そんなところも桜なんだけどね。

「え〜と、皆さん訊く気無いみたいなので私のことは“通行人A”でいいです。」

「「「「「「「「「「おおいっ?!」」」」」」」」」」

「え?駄目?じゃあ“山田花子”でいいです。」

「秋山!我が立海大の恥を晒す気か!たるんどる!」

「たるんでるのは丸井先輩のお腹でしょ?」

「俺の腹はたるんでねえよぃ!」

これ以上やると真田先輩の怒号が飛んでくるので渋々挨拶するけどさ…。
納得いかないよ。
だってマジで私の名前なんて知らなくても良くない?
私はひとつため息を漏らして前に向き直った。

「立海大附属中学1年秋山香澄。皆さんとよろしくする気は毛頭ありません。私がここに来た目的はただひとつ。狼の巣窟で桜を護るためです。ですが、義務は果たしますので文句は受け付けません。そして最重要事項。」

するり、と桜と腕を組んだ。

「桜に手ぇ出したら明日の朝日は拝め無いですよ?桜には、マネ業に専念してもらうために台所には一切立たせません。台所の責任者は私ですのであしからず。」

もの凄いブーイングの中、オリエンテーションは幕を閉じた。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

恒例の自己紹介です(笑)
まだ出てきたのが数人ですね…。
頑張ります(^^;


2009*2*19

[*前へ][次へ#]

18/119ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!