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テニスの王子様
他校訪問


勢い余って来たはいいが…。
テニスコートって何処でしょうかね…?

ここまではバスに乗ってきたからいいんだけど…。
よく考えたら青学には初めて来た訳だし、迷子になるの必至だよね…。
もう部活時間だろうからリョーマ君にメールしても繋がらないだろうなぁ…。

それに。
下校生徒の視線が痛い。
そりゃそうだよね。
他校の制服着てる女が校門に立ってたら気になるよね。
あぁ、どうしよう…。

「あ、あの…。」

躊躇(ためら)いがちに声を掛けてくれたのは腰まであろうかというおさげの女の子だ。
しかも手にしてるのはテニスラケット。

「あ、貴女、テニス部?テニスコート解る?」

「え?!は、はい!」

良かった!
地獄に仏!

「私、氷帝2年の秋山香澄って言います。今日は乾さんが栄養ドリンクを作るっていうので見学しに来たんです。良ければテニスコートが何処にあるか教えてもらえますか?」

「は、はい!こっちです!」

女の子は竜崎桜乃ちゃんと言うらしい。
たまたま校外の外周から帰ってきたところだったらしく、困り果てていた私に声を掛けてくれたという。
今時奇特な子だよね。
大概は皆見てみぬ振りをしてスルーしていく中、桜乃ちゃんは私に声を掛けてくれた。
北海道にいた頃は日常茶飯事だったけど、東京に来てから顔見知りはともかく、そういうことは滅多に無くなってしまった。

都会は冷たいってホントだなぁ、なんて思っていた。

しばらく歩いて、段々と賑やかな声援が聴こえてきた。
ここのテニス部も(うちには負けるが)ファンが多いらしい。
テニスコートに近付くにつれ、黄色い声が耳につく。
つんざくような声援はいつになっても慣れないものだ。

「香澄さん!?」

聴き覚えのある声に振り返るとリョーマ君が立っていた。

「ホントに来たの?」

「え?だって来いってことだったんじゃないの?」

「いや、まぁ…。」

リョーマ君は帽子を目深に被って言葉を濁している。

「あ、それで、乾さんは?」

「え?あ、あぁ…本当に乾汁目当てなんだ…。」

「え?」

「いや、なんでも無いッス。」

今度はふてくされたような感じ。
一体どうしたんだろう…?

「あ、桜乃ちゃんありがとう!」

「は、はい!」

若干呆然としていた桜乃ちゃんにお礼を言ってリョーマ君を追いかけた。
リョーマ君と私が話してる時の桜乃ちゃん、何だか哀しそうだった。
リョーマ君のこと好きなのかなぁ…?
それなら応援してあげたいけど…。
リョーマ君ってそういうのもクールに流しちゃうのかな?
それだと難しいかもね。

そんな考えとは裏腹にリョーマ君はずんずんと先に進んでしまう。
私は追いかけるのに必死だけど、そんなにしないうちにリョーマ君は乾さんのところまで連れて行ってくれた。

「やあ、キミは…。」

「こんにちは、乾さん。氷帝2年テニス部マネの秋山です。今日はドリンク作りの見学に来ました。よろしくお願いします。」

ぺこり、と私は会釈をして乾さんに向き直った。

「いい機会だ。キミは舌がいいみたいだから味見をしてもらおうか。」

「…せめてヒトが飲めるモノにしましょうよ…。」

がっくりと肩を落とす私を乾さんは楽しそうに見ていた。





「そういえば、乾さんはレギュラーなんですよね?」

手にした青緑色の物体の入った容器を遠ざけながら乾さんに話を振った。

「ああ、そうだ。ただ、レギュラー落ちした時期にマネージャーのようなことをしていてね。」

「ふぇ〜。乾さんでもレギュラー落ちなんてあるんですか?」

「うちは校内ランキング戦というもので次の試合のレギュラーが決まるからな。うかうかしてはいられないという訳だ。」

何処も弱肉強食であることは変わり無いらしい。
うちだって一度でも負けたら即レギュラー落ちだって言ってた。





試行錯誤しながら出来たドリンクは色・味・匂い共になかなかの出来だった。
因みに、乾さんはわざと味をあんな風にしているとしか思えない選択だったけど…(汗)。

「ふむ…、出来上がったところで…。」

乾さんの眼鏡が妖しく光った。
アレを飲み干した私が言うのも何だけど…。
普通のヒトが飲んでいいものとは言い難い。

「乾さん、まさかそれ…。」

「疲れていないキミが飲んでも効果は解らなかったからな。」

乾さんは新しく作った物体Xを持ってその辺に突っ伏している部員に飲ませようとしていた。
何やら乾さんとその部員は話したあとこちらをちらりと見て、あろうことかその部員は物体Xを煽った。
すご…、チャレンジャー…。
案の定、物体Xを煽った部員は奇声を上げながら何処かへ走り去って行った。

「香澄さん…。」

「あ、リョーマ君。…?どうしたの?顔青いよ?」

「香澄さんが、あの乾汁作ったの?」

「え?」

「乾先輩、アレ、香澄さんが作ったって…。」

「えええぇぇっ?!作って無いよ!だってアレ常人には超不味い代物だもん!私のはこっち!」

激しく首を横に振って、私は全力で否定した。
突き出したドリンクをリョーマ君はじっと見ていた。

「あ、飲む?乾さんのアレに比べたら大分良いと思うけど…。」

リョーマ君は訝(いぶか)しげに私のドリンクを見ていた。
あの乾さんの物体Xを飲んだ私の舌って信用されて無い?!

「あ、ごめん!無理にとは…。」
「飲むよ。ちょうだい。」

引っ込めようとしたボトルは掠(かす)め取るようにリョーマ君の手の中に収まっていた。
一気に煽るようにリョーマ君がソレを飲んだ。

一瞬の沈黙。

「……、うん、美味い。」

「でしょ?」

張り詰めた空気が和(やわ)らぎ自然と笑顔になった。
やっぱり、今日来て良かった。





「どうもありがとうございました。勉強になりました。」

ドリンクのレシピもゲットして、私はそろそろお暇(いとま)しようと青学の校門まで来ていた。
私が迷いそうだからという何とも否定し難い理由でリョーマ君が見送りに来てくれていた。
帰り際、色んなヒトから「乾汁を作るな」と言われた。
あの乾さんの方便を信じていたらしい。
青学テニス部員達には、乾さんが作った乾汁に私は関与していないことを理解してもらえた。
危うく味覚音痴の大変不名誉なレッテルを貼られるところだった。

「香澄さん、また来てよね。」

「うん、機会があれば…って、コレ今のやりとり、メールでしてたね(笑)。」

「残念だが、その機会はやれねぇな、アーン?」

リョーマ君と話している時、背後から聴き慣れた口調の声がかけられた。
恐る恐る振り返れば、跡部さん以下氷帝テニス部レギュラーの面々が立っていた。

「香澄ちゃん酷いC〜!俺何回もメールしてたのに返事無かったC!」

「へ?え?…あ…。」

鞄の中に入れっぱなしの携帯を見れば、芥川先輩のメールばかり5通程溜まっていた。

「おい、秋山!お前は目を離すとすぐに何処か行きやがるからな。連絡とれなくて迷惑してんだ。部長命令だ。俺様と連絡先を交換しろ。」

何処までも俺様な跡部さんだけど、今はまだメンテの最中の筈だった。
私は確かに一人で出掛けたけど部員のメンテが終わる前に戻れる筈だったのに、レギュラー達は今ここにいる。

それって、どういうこと?
私のことを、心配して来てくれた……なんてありえないか…。

「…仕方無い、ですね。普段連絡取れないのは事実ですし…。」

パカッと携帯を開いて所有者情報を呼び出した。
それを待っていましたと言わんばかりに、他のレギュラー達は跡部さんを端へとおいやって私に迫っていた。

「俺とも交換してや〜香澄ちゃん。」
「侑士ずり〜!俺ともな!」
「同じ学年なんだから俺とが先だろ?」

「…皆さん落ち着いて…。」

何だか、幼稚園の先生になった気分。
だけど、こんな風に騒いでいるのが楽しい。

「てめーら…!」

「うわ!跡部さん凄く怒ってますよ!」

除け者にされた跡部さんがお怒りモードでジリジリと寄ってくるのも、以前の関係のままじゃ見れなかった。
毎日が新鮮で、毎日が新しい発見で、毎日私の知らない皆が私と仲良くしてくれて…。


初めは、絶対にテニス部と関わるなんてお断りって思ってたけど。
皆私と同じ中学生で、ちょっとテニスが巧くてちょっとテニスが人より大好きなだけの連中なんだって思ったら自然に笑顔になっていた。
そして、私が笑って、皆も笑って。
そうやって日々が過ぎればいい。

全員とアド交換が済んで、私はリョーマ君に向き直った。

「リョーマ君、今日はありがとう。」

「別に。猿山の大将さんが昨日に引き続き今日も取り乱してる姿見れて楽しかったしね。」

「生意気言うじゃねーか、アン?」

なんか、跡部さんとリョーマ君って水と油みたい。
なまじっか二人とも天才と呼ばれて、それに足るだけの練習をこなしてきて、プライドも高いから反発し合う。
ライバルというカテゴリーならそれも当然かもしれない。

「香澄さん。」

不意に、リョーマ君に引き寄せられてバランスを崩し、リョーマ君にもたれ掛かるような姿勢になってしまった。

「今度は俺に会いに来て。」

「え?」

耳元で囁かれた言葉に赤面して動け無いでいると、氷帝メンバーが烈火の如くリョーマ君から私を離した。

「くっつき過ぎや!香澄ちゃん、どうせくっつくなら俺にしといてんか!」
「侑士じゃ犯罪だろが!俺とだ!」
「A〜!香澄ちゃんはいつも俺とくっついてるから俺のだC!」
「先輩達鬱陶しいですよ?香澄さんが困ってるじゃないですか。」
「いくら鳳が黒でも、これだけは譲れへん!」
「一体何やってんですか…。」
「激ダサ。」
「てめえ等いい加減に香澄を離しやがれ!」

……。
ライバル?
今さ、ライバルの話になってたよね?
私の中でだけど…。
何?
何なの?
今の私の状態はと言えば、右手はリョーマ君と繋がったまま、背後から氷帝メンバー達に抱き抱えられている。

「…あのぉ…、身動き取れないのでそろそろ離していただけませんかね?」

私を挟んでいがみ合っている状態に呆れながら、声を掛けたけど皆聴く耳持たず。

何この状況。

ライバルって、いつの間に恋のライバルみたいになってる訳?
いや、私に関してそれは無いだろうけど…。
あれか。
お気に入りのおもちゃを取り合う幼稚園児。
私はアンタ達のおもちゃってか?

「…いい加減に離さないと次のドリンク乾汁の10倍効力あるものになりますよ…。」

私の不穏な発言に全員が手を離した。ようやく自由になったところで私はメモをリョーマ君に渡した。

「これ、桜乃ちゃんに渡しておいて。いい子で気に入っちゃったから。」

「…ッス…。」

「それじゃ、氷帝テニス部レギュラーの皆様、ダッシュで学校戻んなさい!メンテサボってこんな所まで来て!メンテ怠って怪我でもしたらどうすんですか!」

「それは…!」
「問答無用!げっぱにはさっき乾さんにもらった乾汁飲ませますからね!」

「「「「「「げっぱ?」」」」」」

「最下位。」

レギュラー達は青冷めて猛ダッシュして行った。

「じゃ、リョーマ君また。」

「香澄さん、まさか走る気?」

「?そうだよ?来る時は道解らなかったからバスで来たけど、解れば走って帰るよ。」

「いや、そうじゃ無くて、レギュラーに追いつけるの?」

「道産子嘗めちゃ駄目だよ?こんな舗装された平坦な道楽勝だから。」

スニーカー履いてるから走るのなんて簡単。
北海道にいた頃は道なき道を歩いたり山道登ったりしてたし。

「じゃね!」

遥か先に走っている氷帝メンバーを追いかけて私は走り出した。





「ふーん、やっぱり香澄さん、興味あるな。」





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

ちょっとは逆ハっぽくなりましたかね?
ギャグハか?

最下位はご想像にお任せします(笑)


2009*2*15

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