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テニスの王子様
優しい言葉


「ちょっと、貴女何してるのよ!」

何時もの如く桜の下駄箱にあった有害物を除去しているときだった。
化粧の濃いお姉様。
恐らく先輩。
そして、この桜を傷つける手紙の差出人。

「おはようございます、先輩。」

「暢気(のんき)に挨拶してる場合じゃないのよ!それ、どうする気よ?!」

先輩は私の持っている手紙を指して凄い剣幕で詰め寄ってきた。

「どうするって…捨てますけど?二度と読めない様に千千(ちぢ)に切って。」

「なっ…?!」

「桜を傷つけるようなことしないで下さい。桜はテニス部に巻き込まれただけですし、絶対にテニス部レギュラーと付き合うことなんて天地がひっくり返ってもありません。」

「口から出任せ言ってんじゃないわよ!」

金切り声を上げて先輩は更に私に詰め寄ってきた。
女のヒステリーって嫌ね。

「香澄…?」

そこにいるのは紛れも無く桜だった。
まだ朝練の時間のはずなのにどうして…?!
いや、今はそんなことどうでもいい。
桜を逃がさなきゃ…!!
こんなことで桜を煩わせたくない。

「桜…!何でも無いから行って!」

「でも…。」

「あら、丁度良かったわ。呼び出す手間が省けて。」

先輩は桜を見るなり嫌な笑みを浮かべて桜に近寄っていった。

「春日さん、だったわよね?ちょっと話したいことがあるの。付き合ってもらうわ。」

「え?はい…。」

あぁ!
桜、駄目だよ!
桜は全然付き合うことなんて無いのに!
そうこうしているうちに桜は先輩に連れて行かれてしまう。

「待って…!桜、駄目っ…!」

「香澄…、大丈夫だよ。」

桜が、笑った。
凄く、綺麗な顔で。

「香澄がいつも私のこと助けてくれてるの、知ってたよ。」

…どういう、こと?

「香澄、私の下駄箱や机いつも綺麗にしてくれてたでしょ?」

「な、んで…!」

「解るよ。香澄が私を親友だと思ってくれてる様に、私も香澄を親友だと思ってる。」

泣きそうになった。
桜が、私のことをそんな風に思っていてくれたのが。
そして、それ以上に桜が、私が思っていた以上に芯の強い子だったことに驚いた。

「私、香澄が居てくれるから、強くなれるよ。香澄が私のこと信じてくれるから、どんなことも平気。」





私は結局桜と一緒に体育館裏へ来ている。
待ち伏せしていたのか、呼び出した先輩の他にも5〜6人の女生徒がいた。
…凄くドキドキしてる。
これから何が起きるか容易に想像できるから。
桜は凜として先輩を見据えている。
桜は“大丈夫”って言ってたけど…。
だけど、桜が傷つくのを見たくない。
私は、ぎゅう、と桜の手を握った。
桜はふわりと微笑んだ。

「私達の言いたいことは解るわよね?テニス部マネを辞めてってこと。」
「ホント、貴女目障りなのよ。」
「どうやって取り入ったのか知らないけど…。」

先輩達は言いたい放題だ。
自分達がマネになれなかったからって桜に当たるなんて筋違いもいいところだ。

「先輩達の言い分は解りました。でも、私は今マネを辞める訳にはいきません。全国大会を控えて選手のサポートを放り出す訳にはいきませんから。最も、私以上に選手のサポートが出来る方が先輩達の中にいらっしゃるなら私は潔(いさぎよ)く引きます。ですが、ただ単に選手と仲良くなりたいだけでマネになられても選手達の邪魔になるだけですから、そこのところは了承しておいて下さい。」

「なっ…?!」
「生意気よ!!」

ひゅん、と振り上げられた腕が桜目掛けて降り下ろされる。

「桜!!」

私の身体は条件反射の様に桜を後ろに庇った。

打(ぶ)たれる!!
そう思ったのと同時に目を固く瞑った。

ぱしっ

肌と肌のぶつかる音。
だけど、不思議と痛みは無くて。
恐る恐る目を開けると目の前に芥子色が広がっていた。

「多勢に無勢なんて卑怯じゃないッスか?」
「しかも下級生をよって集(たか)ってとはのう。」
「恥を知れ!」

先輩達は顔を真っ赤にして泣きながら走って行った。
そりゃそうか。
好きな相手にあんな場面見られてあんなこと言われれば。

「大丈夫ですか?春日さん。」
「お前が体育館裏に行くとこ見て心配したんだぞ。」
「春日が呼び出しを受けている確率は100%だったからな。」

私はと言えば、突然のことに驚いていた。
だって、テニス部レギュラーが来るなんて思わなかったから。
桜を護るのは何時だって私で、こんな風にアイツがいないところで桜が他の奴に護られているなんて今まで無かった。

私は、もう、必要無い…?

そう思ってしまったら、今まで私を支えてきたモノが急に音を立てて崩れてしまったようだった。
足元が、ぐらぐらして今にも倒れてしまいそうになった。

「香澄?大丈夫?」

心配そうに覗き込む桜が私の髪を掻き揚げて私と視線を合わせた。

「香澄、ありがとう。」

ふんわりと微笑む桜は綺麗だ。

「香澄がいたから私、頑張れたよ。」

私は、何もしてないよ。
そう言いたいのに、桜が無事でホッとしたのと、優しい言葉を言うから、私は目の前が霞んでしまって、嗚咽(おえつ)しか漏れ出なかった。

「…っ!桜…、よがっ…よがっだ…!!」

泣きじゃくる私を桜は優しく抱き締めてくれた。





「秋山って偉いな。」

ひとしきり泣いて落ち着いた私を丸井先輩が私の頭を撫でながら言った。

「そうですね。友達の春日さんの為にあそこまで…。」

「…別に、偉いとか偉く無いとか関係無い。桜は私の大好きなヒトだから護ってあげたいだけ。アイツに鼻で笑われるのも癪だし。」

「「「「「「アイツ?」」」」」」

「もぉ、香澄はホント秀ちゃんのこと目の敵にして…。」

「桜は秀を信用し過ぎなの!アイツ、桜の前では猫被ってるけど騙されちゃ駄目なんだから!!あの胡散臭い笑顔の裏にはとてつもなく恐ろしい本性を隠してるんだから!!周防秀の名の如くドSなんだから!!」

「お、おい、その周防秀って誰だ?」

最もな意見をありがとうございます、ジャッカル先輩。
口に出して言うのもおぞましい関係なんだよね…。

「秀ちゃん…、周防秀は香澄の従兄弟なんです。」

「そいつが何でこの話題に出てくるんだ?」

「………、知りたいんですか?」

「「「「「「は?」」」」」」

「先輩達は、どうしてもあのクソ男のことを知りたいんですか?」

「…秋山がそこまで言う相手ってのが気になるな。」

「それに、桜の口振りから言って、桜とも知り合いなんだろ?」

先輩達は心なしかウキウキしているように見える。
この事実を知ったら落胆しか無いのに…。
一体どんな想像しているのやら…。

私はため息をひとつして、深く息を吸った。

「…後悔しても知りませんからね。周防秀ってのは……。」





「桜の彼氏です。」





照れる桜。
固まる先輩達。


あぁ…。
折角あのアホ男と違う学校に行けると思ったのに、ちゃっかり桜に告ってカレカノになっちゃうんだもん…。
桜を毒牙から護れたと思ってたのに……。
あんな風に桜がはしゃいじゃったら反対も出来なかった。


あの時の無力な私と同じような表情で先輩達は肩を落としていた…。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

やっと桜さんに彼氏がいることを暴露しましたね(^^;

部員達は相当ショックを受けていると思われます。

因みに周防秀(すおう・しゅう)で、イニシャルS・SなのでドS性格です(笑)
青学編の周防秀と同一人物になります。
あっちのヒトはまだ猫被ってます(笑)


2009*2*11

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あきゅろす。
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