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テニスの王子様
授業中



香澄は食い入るように授業を受けていた。

学業を疎(おろそ)かにしないこと。

それがこの学校に入る時、両親との約束事だった。
普通の公立に行く方が親としては有り難い。
だが、敢(あ)えてこの学校を選んだのには理由がある。

最近は公立より私立の方が学習に対し意欲的であり、進学率も伸びている。
香澄だって、マジックだけで生活出来るほど人生が甘くないことくらい知っている。
マジックを本格的にやるにしても学力がなければそれ相応の時間を作ることも出来ない。
遊びにしろ、本気にしろ、何かを成すために必要なことを香澄は貪欲に吸収していた。
マジックのタネだって、何処に転がっているかも解らない。
知識の習得や周囲へのアンテナを張り巡らせることは、全て香澄の糧となるのだ。





「ね、委員長、さっきの化学、ここってこう?」

「そうよ。こっちも同じ反応。」

「そっか!ありがとう!」

解らないことはすぐにヒトに訊いて解決している。
香澄にとって時間を作るためなら自分のプライドなんて二の次だ。




香澄の前の席は越前リョーマという生徒だ。
大概の授業は寝て過ごすという大物だ。

香澄にそのような度胸は無い。
人前に出るのは好きだが、悪い意味での注目は嫌いだからだ。

「(よく寝るなぁ…。)」

真ん前の席で堂々と突っ伏しているリョーマをぼんやりと眺め、入学式の日、桜の木の下で寝ていた姿を思い出していた。





リョーマはよく寝ているが、授業中に当てられても正答を言えるだけの勉強はできていた。
香澄はそんなリョーマに一目置いていた。

「越前君、はい。」

「…何?」

「何って…、ラベンダーのポプリ。」

「何で?」

「越前君、いつも授業中寝てるから夜眠れないのかなって。有名所でラベンダーは鎮静効果があるからゆっくり寝られるかなって思って。」

「…夜は寝てるよ。」

まるで睡眠を邪魔されて不機嫌な猫のように越前はぶすくれていた。
越前にしてみれば“余計なお世話”だろう。
香澄は別段気にすることも無く越前を見ていた。

「何?用が無いなら俺寝たいんだけど。」

「…あんまり寝てると身体弛(たる)むよ?」

「部活で動いてるし。」

「…普段から適度に緊張させとかないといざというとき動かなくなるってこと。」

「余計なお世話。」

「まぁ、それもそうか。」

手をヒラヒラとさせて香澄は自分の席に戻った。

「あと、これいらないから。」

机の上に置いてきたポプリを突き返された香澄は大人しくそれを受け取った。





「…やられた…。」

どういう訳かいつもよりぐっすりと眠れた次の日の朝。
返した筈のポプリが越前の鞄の奥底から発見された。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

前回に引き続き、あげたいものはなにがなんでもあげてしまうヒロインちゃんでした(笑)


2009*3*21

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あきゅろす。
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