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テニスの王子様
技術者


「こんにちは〜。」

校舎のとある一室。
香澄は扉を開けて中へ入って行った。

「あぁ、秋山さん、こんにちは。」

柔らかい微笑みで出迎えてくれたのは新聞部部長の周防秀だ。
他の部員はほとんど幽霊部員らしく、大概集まりがあっても来るのは周防と香澄だけだ。
酷い惨状だった部室もやっとのこと半ばまで片付け終えたところだ。


「いや〜、秋山さんが来てから作業能率が上がって助かってます。何せ僕は機械音痴ですし部員も部活存続ギリギリですから文芸部にコラムを頼んだり購買の方に割引券を提供していただいてスペースを埋めたりしていたんですよ。」

柔らかいけど困ったような笑みで周防はそう言った。
周防は新聞記者になりたいそうだが、機械類の操作が全く出来ない。
昔ながらの足と耳を使っての情報収集をしている。
ビデオやデジカメなんかも使えない。

それでよく新聞作っていたなと香澄は感心していた。

「ところで、今は何をしているんですか?」

「あぁ、これは今までの新聞をスキャナでパソコンに取り込んでます。」

香澄は自分の家から持ち込んだハンディスキャナでバックナンバーをスキャンする。
開校当初からの記事なので莫大な量だ。

「今までの記事の傾向と読者のリサーチです。パソコンで見れるようになれば他の生徒も気軽に新聞見てくれると思うんですよね。だから、検索エンジン積んでホムペ立ち上げる予定です。」

「え?」

「あ、学校側の許可ならもうもらいました。会長さんと顧問と校長に。」

ヒラリと香澄は申請用紙を周防に手渡した。
それを見た周防は目を丸くしている。

「よく手塚君の印鑑捺(お)してもらえましたね…。」

「少し生徒会長さんのお仕事手伝ったんです。そしたら快く捺してくれました。」

周防は半ば呆れとも尊敬ともつかないような表情で香澄を見ていた。





「よし、おーわりっ♪」

ようやくバックナンバーのスキャンが終わった頃には、外は既に夕闇。
周防も用事があるとかで先に帰ってしまった。

「あちゃー、結構暗いなぁ…。」

玄関から出た香澄は一人ごちた。
春とはいえまだ日没も早い。底冷えのする道を一歩踏み出した。


と、思っただけだった。


いつの間にか天地がひっくり返り、香澄は星空を見上げていた。

「…いったぁ…。」

しばらくして香澄は、自分が何かを踏んずけてお尻を強打した上に仰向けに倒れたことを理解した。

「何なのよぅ…。」

むくりと起き上がり香澄は視線を巡らせた。
香澄は、夜目は効く方だがじっと目を凝らすと何やら丸いモノが見え、それがテニスボールであることに気付くのにもややしばらくの時間を要した。

「…何でテニスボール?コートからここって遠いじゃん…。」

「っかしーなぁ…、確かこっちだと思ったんだけどなぁ…?」

香澄の背後から何かを探している生徒が近寄ってきた。
声質から言えば男子。
ぼんやりとだが相応に背が高い。

「あれ?お前大丈夫か?こんなとこに座ってたら冷えるぞ?」

座り込んでいる香澄を見て男子生徒は眉をひそめた。

「…大丈夫です。」

「ところでよ、この辺でテニスボール見掛けなかったか?何かあらぬ方向に飛んでいってよ。」

テニスボール。
香澄の耳は、その言葉を捉えた。

「(転んだのはコイツのせい…!)」

香澄は薄闇の中、表情は見えないが極上の笑みを浮かべていた。
既に香澄の脳内ではボール→目の前の男子生徒が転がした→そのせいで転んだ→男子生徒=敵、というあまりにも偏った図式が出来上がっていた。

「テニス部の方ですか?」

「おう、2年の桃城武だ。」

「すみませんが、乾先輩のところへ連れて行っていただいてもよろしいでしょうか?私の従兄弟なんです。私足をひねったみたいでして…。」

「そーなのか?ひねったなら歩くの辛いよな?おぶされよ。」

有無を言わせ無い雰囲気のある桃城の厚意に香澄は甘えることにした。
足はひねっていない。
ただ、香澄は桃城に相応の復讐をしようとは目論んでいた。




______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

ちょっと長くなりそうなので続きものへ変更(笑)

というかサブタイトルと違ってくるので…(;^_^A
ヒロインちゃんはパソコン自作できるくらい凄いのよってのを前話と併せてお伝えできればいいな、と思ってます(^-^)


2009*1*30

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あきゅろす。
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