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テニスの王子様
奇術師


青学レギュラーである桃城に背負われている香澄は良くも悪くも注目の的だったであろう。
幸い、ほとんどの部活は終了しておりテニス部も片付けをほぼ終えた状態のため、ファンはいなくなっていた。

「乾先輩〜、お客っすよ〜。」

桃城はノックする間もなく部室のドアを開けた。

「桃城、一応ノックくらいはしろ。」

「いくら男しかいないとしても着替え中かもしれないじゃん?」

口々に文句を言うものの、本気で怒っている訳では無いので桃城も笑っている。
それも、桃城に背負われている香澄に気付くまでであったが…。


「はわっ…?!お、降ろして!!」

「は?何言って…?」

香澄はこれ以上無いくらい慌てふためき必死に桃城の腕から逃れようとしている。
それもそのはず。

さっきの台詞は冗談では無かった。
現にまだ着替えの途中である部員がちらほら…。

「いいから放して!!」

「あっれ〜?秋山さん?」

「本当だ、どうしたの?こんなところまで。」

以前話した菊丸や不二が話しかけ、他にも見知った顔がこちらを凝視していた。

一方、香澄はパニックに陥っていた。
この歳まで親しく触れてきたのは父親と小さい頃の乾のみ。
思春期の男子生徒の裸(例え上だけでも)など見たことは無く、免疫が無い。
顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうだ。


プツン


香澄の脳内で何かが切れた音がした。
今まで慌てふためいていた香澄の表情がすっと冷静になる。
徐(おもむろ)に制服のポケットから何かを取り出し、上に放り投げた。

パンッ

空砲のような音が鳴り、部員全員がその音のする方向を見た。

「あ、あれ?」

いつの間にか桃城が背負っていた筈の香澄の姿はテニス部部室から消えていた。





「今までおぶってたんすよ?!手を緩めてもいないし…!」

部室内は騒然としていた。
香澄が消えたことで幻覚や幽霊だったのではないかと大騒ぎ。
決して広いとは言えない部室内で香澄を大捜索中である。

その中、ただ一人冷静なのは乾だった。
因(ちな)みに部長・副部長は顧問と話し合い中のため不在だ。

「皆落ち着け。香澄なら実在するし、消えた訳では無い。香澄、もう着替えは終わったから入って来ていいぞ。」

頭に??と浮かべている部員は乾をじっと見ていた。

キィ

静かに部室のドアが開きおずおずと香澄が顔を覗かせる。

「…はる兄、ホントに大丈夫?」

「あぁ、安心していいぞ。」

部室に入って来たのは紛れも無く香澄であり、部員は安堵のため息の次にどうして消えたのか詰め寄ってきた。

「なぁなぁ!どうやって消えたんだ?!」

「急にいなくなるから驚いたよ。」

「人騒がせな…。」

「まぁ、皆待て。」

口々に飛ぶ質問に戸惑った香澄のフォローに乾がかってでた。

「まず、香澄が手品をよくやっているのは知っているな?」

「俺知ってるにゃ〜!」

「僕も。」

「てか知らない奴はいないんじゃないッスか?」

乾に勧められた椅子にちょこん、と座っている香澄を見て部員は口々に言う。

「それなら話は早い。香澄がやったのは初歩的なモノだろう。ヒトの注意を一瞬でも反らせば抜け出すことは可能だ。」

香澄はこくん、と頷くが内心は穏やかで無い。
マジシャンにとってマジックのタネや仕掛けはマジックの成否に関わる。
バレてしまえば観客の反応は薄くなる。
目の前で理解不能なことが起こるからマジックの効果が鮮やかに観衆の中に残るのだ。

「…はる兄、あんまりネタバラさ無いで…。」

「あぁ、すまん。…ところで、どうしたんだ?桃城に背負われて来たが…?」

「あぁ、うん。テニスボール踏んで転んだ。」

「…珍しいな。香澄が。」

「…普通さ、生徒玄関前にボールが転がってるなんて思わないじゃない。そのボール転がしたのが…え〜と、桃城先輩?みたいだし…。」

「ほぅ…桃城…。」

「い、いや!不可抗力ッスよ!乾先輩!それに俺テニスボール見つけられなかったッスよ?ホントにそいつがボールで転(こ)けたかどうかなんて解らない…!」

「桃先輩、往生際悪いッスよ?コレ、何スか?」

リョーマが桃城のジャージから取り出したのは紛れも無くテニスボール。

「なっ…?!」

「桃、ポケットのボール無くなったから探しに行ったって…。」

「ホントに俺っ!!」

「まぁいい。」

「乾先輩…。」

「コレで無かったことにしてやる。香澄もいいな?」

乾が取り出したのは毒々しい赤茶色の物体。
香澄は嬉々として覗き込んでいた。

「わ、わ、はる兄!コレ何?!」

「ペナル茶(ティー)ver.3だ。」

「いっ…?!か、勘弁して下さいよ、乾先輩!!」

ずいっと目の前に差し出された奇妙な液体からは不気味な気泡や臭いが発生している。
桃城の顔はみるみるうちに青ざめていく。

「観念しなよ、桃。」

「ふん…、証拠があるんだ。みっともない真似はよせ。」

「テメ…、マムシ!自分に関係無いからって…!!」

「桃城。」

乾の逆行眼鏡が鋭く光り、桃城もたじろいだ。

「わ、解ったッスよ!飲めばいいんでしょ?!飲めば!!」

桃城は奪いとるように乾からコップを受け取りソレを煽った。

「ぐおぁおおぉぉぉっ!!」

奇声を上げながら桃城は掠れゆく意識の中、楽しそうにほくそ笑む香澄の顔を見た。

「(…くそっ、騙された…!)」





「…マジで倒れちゃったの?」

「あぁ。だが、目が覚(さ)めれば疲れは無くなっているだろう。」

「流石、効果だけはあるよね。」

「香澄も飲むか?」

「冗談。はる兄のスタミナドリンクの不味さは身を持って体験してるからね。」

「そうか…。時に香澄、あのボールを桃城のジャージに潜ませたのはお前だな?」

「「「「「は?」」」」」

「さっすがはる兄。お見通しって訳か。あ、でもボール踏んずけて転んだのはホント。ホラ、ボールに私の靴痕あるでしょ?何ならお尻ぶつけたから赤くなってんの見る?」

「わわっ!!」
「おやおや。」
「なっ…?!」
「……。」
「香澄、そこまでしなくていい…。」

乾はスカートを捲りあげようとする香澄の手を制した。
他の部員は多種多様な反応だが大多数は顔を真っ赤にしていた。

「だって、私みたいにボール踏んで転ぶヒトがいるかも知れないでしょ?転がした本人に返さないと、ね?」

「まぁ一理あるがな…。」

「それに、転ばされてちょっとイラっとしたんだよね。だからはる兄に会いに来たの。」

「「「「「え?」」」」」

「ふふっ!じゃあイライラも吹き飛んだから私帰ります!」

香澄はこれ以上無いくらいの綺麗な清々しい笑顔で帰って行った。

残された部員達は複雑な顔をして佇んでいた。
乾を除いて。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

ギャグちっくですね(笑)
桃ちゃんファンの方ごめんなさい(o_ _)o

ヒロインちゃんはしたたかですね(笑)
作戦通りに物事が進んでホクホクしながら帰ったことでしょう(^/^)

2009*2*8

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あきゅろす。
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