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テニスの王子様
心配させて


しばらく休んで体調は良くなった。
すぐにでも動けそうだ。
ベッドサイドに立ち数十秒。
うん、目眩はしないみたい。

身支度を整えて私は保健室を後にした。





「秋山?!」

コートに戻った私を皆が血相を変えて近寄って来た。
正直、図体のデカイテニス部員に寄って来られると怖い。

「大丈夫なのか?!」

「え?えぇ、まぁ…。」

「何だよ、はっきりしねぇな?まだ具合悪いんじゃねーの?」

「大丈夫です、向日先輩。」

「ホントに平気?熱射病を甘く見たら駄目だよ?」

「うん、水分も摂ったし身体も楽だよ。」

口々に私を心配する言葉が降ってくる。
私、いつの間に受け入れられてたんだろう…?

「あ、あの…、心配かけてすみませんでした。」

「ええんよ。香澄ちゃんが元気そうで安心したわ。」

「ふん、自分のことにも気を回しておけ。お前はやることやっていやがるんだから誰にも文句言わせねぇよ。」

反応は様々だけど、私のことを気遣ってくれているのは解った。
それが少しくすぐったくて嬉しかった。





「…ところで…、あの辺で死屍累々となっているのは一体…?」

トーナメント表を見れば、どうやら試合で負けたヒト達のようだった。
今はシングルス戦なのでダブルス戦で負けたのだろう。

「ああ…。」

みんな渋い顔をしている。
この反応から私みたいな日射病で倒れては無いようだけど…。

「Won by 青学!7-6。」

丁度現在行われていた試合が終了した。
氷帝側は悲痛な面持ちで、相手の青学側は泣くほど歓喜している。
この異様な雰囲気に私はいぶかんだ。



そして、何ともし難い光景を目の当たりにした。


青学の選手であろう眼鏡で長身のヒト(逆行で眼鏡の奥が見えず不気味だ)が持っていたステンレスボトルから緑色のドロリとした液体をコップに注ぎ、敗者に渡している。

「…あれ、何?」

「乾汁だ。」

「いぬいじる?」

何とも不味そうなネーミングに思わず変換を忘れて平仮名発音をしてしまった。
きっと今の私は相当阿呆面を晒しているに違いない。
だけど、それを気にする風でも無く、選手達は固唾を飲んで事の成り行きを見守っている。


顔面蒼白で。


今飲まされそうになっているのは芥川先輩だ。
必死に抵抗していたが、意を決して緑色の液体を煽った。

「ぐはあっ!!」

「?!」

芥川先輩は奇声を発してその場に倒れた。

「芥川先輩?!」

私は居ても立ってもいられずコートの中へ入って行った。
駆け寄った時、芥川先輩は白目を剥いていた。

「ちょっと貴方!一体何飲ませたんですか!飲み物飲んでこんな状態…!食中毒じゃ無いでしょうね?!」

私はあまりの衝撃に相手が先輩であるにも関わらず喰ってかかった。

「心配しなくていい。気を失っているだけだ。それに、身体への害は無い。」

長身眼鏡の青学レギュラーはさも当たり前のように言い放つ。

「本当なんですか?」

「疑うのなら試してみるか?」

既にコップに移された緑色の液体・乾汁。
見た目は青汁。
私は一気にソレを煽った。

「秋山っ?!」

「止めろ!!」

「馬鹿っ…!」

煽る直前に口々と私への声かけが聴こえた。


ゴクン


紙コップの中身は全て私の食道を通り胃の中へ。

「…ぅえっ、不味っ!!」

顔面蒼白になりながら近寄って来たレギュラー達は一瞬動きが止まり、私を不思議なモノでも見るような変な目で見ていた。

「秋山…?」

「おい、お前…?!」

「だ、大丈夫?」

皆口々に私を気遣う。
別に何とも無い。

「青汁でしょ?普通のより不味いけど…。」

口の中がまだ青々してる気分。
舌の上に残る青菜の繊維と味。
好きな食感では無いがそこまで不快では無い。

家では、野菜不足を補うため母さんとしょっちゅう野菜ジュースモドキを作ることが多い。
だから、大概の味には慣れている。



「ほぅ…興味深いな。確か、秋山さんだったな?俺は青学3年の乾貞治だ。よろしく。」

「乾さん、ですね?よろしくお願いします。」

ペコン、と会釈をひとつ。
周りの先輩達は奇妙な目で私を見ている。

「先輩達だらしないですよ?あの程度でダウンなんて…。味の耐性とスタミナ不足ですかね…?」

「おい、秋山、まさかと思うが…。」

先程まで倒れていた宍戸先輩が青い顔をしてにじり寄って来た。

「乾さんにレシピもらってこようかな…?」





全員から断固拒否され、乾さんに向かって行こうとすると樺地君に抱き上げられてしまった。
跡部さんの命令じゃなくても行動したとなると彼も相当嫌らしい。

皆から口々に「やめてくれ」と言われた。
皆のこと思ってやってるのになぁ…。
今日はホント、心配されて心配して…。
忙(せわ)しなかった。
でもこんな風に仲良く出来るなんて思わなかったから、皆といて“楽しい”と感じている自分に驚いた。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき


乾汁が「不味い」と言いながら飲み干したヒロインちゃんでした(笑)
そして、何気に仲良くしてみました。

これから段々逆ハっぽくなるよう精進します(._.)←オイ

2009*1*14

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あきゅろす。
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