テニスの王子様
お姉様からデートのお誘い
「ねぇ、貴方、何て名前？」
いつも通り「らーめん桑原」でのバイト中、テイクアウトで頼まれたゴマ団子を運んだら、テーブルに着いていた美人なお姉様に声を掛けられました。
「はい、秋山と言います。」
「ふぅん、秋山君ね。ねぇ、お休みってあるの？」
「えぇと…ずっとバイト入れてるので休みはないです。強いて言えば土曜の日中くらいですかね？夕方からまたバイトなので。」
「そう。それじゃあその時間でいいわ。私とデートしましょ。」
何て積極的なお姉様なんでしょ。
周りにいる他のお譲さん達から酷い視線を感じるのですが。
「これ、連絡先ね。」
「あの、私メールオプション付けてないんですけど…。」
「じゃあ電話でいいわ。土曜日の10時きっかりに電話ちょうだい。」
そう言い残して、そのお姉様はゴマ団子を持って颯爽と店を出ていった。書かれた連絡先には「切原桃代」と名前が書かれていた。
「秋山君っ！！あの人がいいなら私もいいよね？！」
「何言ってるのよ雌豚っ！私が先よね？！」
「私だって秋山君とデートしたい！！」
しばらくスケジュール過密になるなぁ…、と思いながら、お姉様達とデートの約束を次々と取りつけることとなった。カウンターの奥で、桑原さんが困ったように笑っていた。
そして、土曜日。
午前10時きっかりに切原さんの電話にコールしたら、7コール目で出た。微妙な感じだけど、私も女ですからね。切原さんの心理、解らなくもないんです。
すぐに出たら心待ちにしていたと思われる。かと言って、あんまりにも出ないと約束自体がポシャる。
「こんにちは、切原さん。」
『今日は“桃代”って呼んで頂戴。』
「はい、桃代さん。」
『まずは駅前まで出てこられる？渋谷に行きたいの。』
「わかりました。すぐに出ますね。10分程時間をください。」
プツン、と一旦電話は切れて、私は駅まで走った。
駅前に着くと、落ちついた大人ワンピを着た桃代さんが立っていた。
「すみません、お待たせしまして。」
「いいのよ。じゃあ行きましょうか。」
「はい。」
田園都市線に乗って揺られること約40分。
渋谷では桃代さんの買い物の荷物持ちをして、カフェでゴハンおごってもらって(ここ重要)、桃代さんに断ってゲームセンターで遊んだ。
「へぇ…秋山君ってゲーム上手いのね。私の弟と気が合いそう。」
「弟さんいるんですね。桃代さんの弟さんならイケメンなんじゃないですか？モテるでしょう？」
「学校ではどうだか知らないけど、家じゃただのクソガキよ。まったく、可愛くないんだから。秋山君が弟だったら良かったのに。」
それは生物学上無理ですね。
「ははっ…。同い年くらいなんですか？」
「そうね、中2よ。そういえば秋山君は？」
「あ、私は中3ですね。」
「たったひとつしか違わないのにこんなに違うのよね。あ、プリクラ撮りましょうよ！」
ああ、そういうとこやっぱり女の人なんだな…。
いや、買い物の中身を見れば女性だっていうのは歴然としているんだけど。
私は可愛いモノは好きだけど、この上背のせいもあってなかなか似合わないんだよね。それでどんどん男物に流れてしまって……。
「あ、桃代さん、私、そろそろ…。」
「あら、もうそんな時間？残念。」
「荷物は家まで運びますので。」
「え？間に合うの？」
「はい。大丈夫です。それにこんな重い物女性に持たせられませんよ。」
「〜〜〜〜〜っ！秋山君優しいのね！！」
「へ？普通のことですよ？」
「ううん！やっぱり弟チェンジしたい！うちの赤也なんて、荷物が重いってぶーぶー文句垂れるんだから！！」
一瞬、聞いたことのある名前に体が反応した。
そう言えば、この人、「切原」って……。
家まで案内されて、疑問が確信に変わった。
玄関先で桃代さんを出迎えたのが、“あの”テニス部の“切原赤也”その人だったから。
「あれ？ねーちゃん、今日は男とデートかよ。何か土産ないの？」
「こんの、バカ也！！ごめんね、秋山君！失礼な弟で！！」
「いえ…、あの、今日は楽しかったです。ありがとうございました。」
「やだ！お礼を言うのは私の方よ！また今度デートしましょう？」
「そう、ですね。体が空いたらでお願いします。それじゃ、私バイトに行きますね。」
ご機嫌に手を振る桃代さんの隣で、ぶすくれる切原君。
面識を持ってしまったということは、学校で注意する人物が増えたということか……。
やっぱり人付き合い、考えよう……。
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あとがき
勝手に切原姉を登場させた回。名前も適当です。
「赤」也だから色が入ったほうがいいか、みたいな適当なノリです(笑)
まだ女だってバレてません。
でもまあ女性らしい名前だとなんでバレないんだってなりますけどね←
2014.05.08
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