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テニスの王子様
気は優しくて力持ち


ホームセンターで肥料を買うのはいい。神奈川を出て、私服を着て、ウィッグの一つも被れば男に見えるし、私を知る人がいないからだ。若干背が高いのが効を奏したという訳です。
ただし、学校にそれを持っていくとなると、人目を気にしなければならない。
と言う訳で、必然的に花壇に向かうのは早朝か、部活動の生徒が帰った後ということになる。

まぁ、土いじり好きだからいいですよ。
草花はいい。
だって、私を「怪物」だなんて罵らない。変な目で見ない。力の加減さえすれば、怪力である私にだって育てられるんだから。





そんなある日のこと。
例の如く、幸村君に雑用を押しつけられて、行きつけの東京のホームセンターで煉瓦を買い込んでいた時だった。
まぁ、ほら、アレですよ。
煉瓦って細々(こまごま)しているからバランスを崩したんです。

「ぅ、わっ…!」

“転ぶ”よりも“煉瓦が割れる”の方が、優先度が高く、煉瓦を庇うように地面に背を向けた時だった。思っていた衝撃がなく、恐る恐る目を開けると、私を支える巨躯が一つ。
何と言うか…大きいんだけど、純真無垢な瞳をした小動物みたいな彼は、私をじっと見つめていた。

「あ、の…ありがとう、ございます……。」

「ウス。」

ますます小動物の様だ。口数も少ないなんて。力持ちで小動物ということは、ハムスターだろう。うん、ぴったりだ。あの円(つぶ)らな瞳が正(まさ)しく。
そんなことを思っていた私をそっと助け起こしてくれたハム君は、私の持つ煉瓦の半分以上を持ってくれたのだった。

「え?あの!」

「レジまで、運びます。」

ぎこちなく話すハム君は、本当に可愛らしい。

「ありがとうございます。」

「いえ…。」

無事に会計を終え、ハム君に再度お礼を言うと、照れたように、ハム君は視線をずらしていた。

「そういえば…その制服、氷帝の?キミ、いいとこのお坊ちゃんなんだねぇ。それなのに見ず知らずの私の手伝いまでしてくれて……ハム君いい子!!」

「樺地、崇弘、です。」

「あ、ごめんなさい!ハムスターみたいだったからつい……!!」

「…ハムスター……。」

ハム君改め、樺地君は、ポーカーフェイスだからか、怒っているのか、困っているのかもよく解らなかった。そういう心が読めないところもハムスターみたいなんだけど……。でも、初対面の人にいきなり“ハムスター”呼ばわりは嫌に決まってるよね……。

「ホントにごめんなさい!」

「いえ…どうして、ハムスター、なんでしょうか…?」

「え…?いや、綺麗な目をしていて力持ちだから……。」

「…そんな風に、言われたの、初めて、です。」

心なしか、樺地君は照れているように見えた。

「怒って、ない?」

「怒りません。」

樺地君は、とても優しい顔で笑った。うん、本当に可愛い、この子。
訊けば、樺地君は中2で、私の一つ下だということが解った。
樺地君はそのまま駅まで荷物を運んでくれた。改札口前で、私は樺地君に向き直った。

「今日はホントにありがとうね、ハム君、じゃなかった、樺地君!」

「ハム君で、いいです…。」

「え?!いいの?!嫌じゃない?!」

「嫌じゃ、ありません、香澄さん…。」

そう言ってハム君は、私がホームに消えるまで手を振っていてくれた。





今日、草花以外にも、優しい人と知り合えました。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

ハムスターが力持ちと聞いて……。
イメージ違ったらすみませんorz(土下座)

2013.02.15

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