テニスの王子様
ヘタレに祝われました
晴れて仁王と結ばれましたが、何分、仁王は相変わらず人気が高いので、私と必要以上に接点を持たないよう言い聞かせるのは最早日課になりつつある。
「香澄ちゃん、帰るなり。」
「馬鹿野郎。校舎から100m離れてから話しかけろと言っただろうが。」
「…折角甘い関係になれたのに、香澄ちゃん変わらないなり…。」
「…いきなりは無理だから。わんこが彼氏に格上げしたからって、周りに対する私達の関係は変わっちゃいけないの。」
「それは、そうなんじゃが…。」
ぶすっと膨れる仁王が可愛くて、私はわしゃわしゃと頭を撫でた。
「わっ!香澄ちゃん!乱れるぜよ!」
「いいじゃん。じゃ、帰ろうか、ハル。」
「っ!っ!!うん!」
仁王は、私が名前を呼ぶとホントに嬉しそうに笑う。こういうとこが可愛くて犬扱いするのは、私だけのせいじゃないから許してほしい。
周りに関係を隠しながらの付き合いに、仁王は文句も言わず付いてくる。その分、二人になると途端、甘えてくるのだが。そんな仁王も可愛いと思ってしまい、私も随分と骨抜きにされたものだとしみじみ思う。
そんなある日、仁王から「明日放課後予定空けておいて」とメールが届いた。明日は特になにもない。でも、ふと自分の誕生日であることを思い出した。
「(まさか、ね。)」
布団に潜り込んで、私は目を閉じた。
少しはそういうことがあるのかも、と思ってそわそわしていたのだが、友達からは「何かいいことがあったんでしょ」と問い詰められて大変だった。
そして放課後、私は仁王の家に招かれた。と言っても、付き合うようになってからは度々お邪魔してハルのご両親やお姉さんとも挨拶を交わしていた。
「ハルの家に来たの久しぶりだね。」
「だって、香澄ちゃん、稔治と仲いいんじゃもん。」
ぷいっとそっぽを向く仁王は、どうやら拗ねているようで、ホントに手が掛かる。確かに稔治君とはあの時の秘密を共有している訳だから傍(はた)から見ると仲良く映るのだろう。今日は留守のようだが。まぁ、仁王の彼女になってから、稔治君には「頑張ってください」となんだか可哀想なものをみる目を向けられたが……。
「だぁって、稔治君可愛いんだもん。」
「お、俺だって可愛いじゃろ?!」
論点はそこじゃないと思うんだけど。確かに事あるごとに“可愛い”とは言ったり思ったりしたが、そんな私の言葉まで独占しようとしているのだから、結構な嫉妬心だ。
「それで?今日はわざわざどうしたの?」
ハッとした仁王は、ごそごそと机の引き出しを漁り、小さな包みを私に差しだした。
「誕生日おめでと!!」
「は…?え…なんで…?」
「なんでって…香澄ちゃんは俺の彼女だから、祝いたかったなり。嫌じゃった、か?」
「や、嫌じゃないけど…。」
まさか本当に私の誕生日を祝ってくれるとは思っていなくて、私は面を喰らっていた。
包みを開いて小箱を開けると、中は細いシルバーのピンキーリング。
「この指は、俺が18になったら指輪を贈るから、それまで空けて待ってて欲しいなり。」
トン、と左の薬指を指さされた。
「18って…無理。」
「なんでじゃ?!!」
「や、普通に考えようよ!結婚するって簡単じゃないよ?!仁王仕事はどうする気?!いや、私もいずれは働くけど、私進学するつもりだよ?!」
「香澄ちゃん、リアリストだったんか…。」
がっくりと肩を落とす仁王を見て、くすくすと笑いが込み上げた。
「でも、いいよ。この指空けておくから、迎えにきてね?」
「っ!!うん!」
可愛いわんこがホントの意味で男になるのはまだ先のようだ。
でも、それを楽しんでいる私がいる。
いつか、ご主人様の私を、ただの女の子にしてくれるのを……。
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あとがき
全20話でした。
最後、乙女チックですかね……orz
2012.11.21
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