[携帯モード] [URL送信]

テニスの王子様
ヘタレに泣かれました


仁王と絶交してから3日。
まだ、3日。
幸い仁王とクラスは別だし、登校時間は早くしたし、授業以外は極力トイレに逃げ込み、放課後は一目散に家に帰る。仁王の姿が見えようものなら隠れるか、元来た道をUターンするか。
そんな生活が、これからも続くのだ。
仁王から逃げているみたいだけど、それしか仁王に関わらない方法が思いつかない。だって、クラスメートから休み時間が終わるたびに、仁王が私の教室に来ていることを口々に言われるからだ。
つまり、私が離れないと、仁王はいつまでも私を追いかけてくるのだ。
早く、諦めればいい。
なんで私に執着しているのか知らないけど、もともと不自然だったのだ。
かたや学校のアイドル、かたやその辺の生徒。
一緒にいること自体がおかしかったのだから。

「秋山さんはいますか?」

どよめきと共に教室の入口を見ると、そこに立っていたのは柳生比呂士だった。
ちくしょう。トイレに立てこもるつもりが一足遅かった。
一体何だと言うのだ。私が一体何をした?テニス部と関わるようなことはしてこないつもりだったのに、何故この短期間にテニス部二人と接触しなければならないのだ。
神様なんて信じていないけど、神様馬鹿野郎。
教室前だと人目につくから、と連れて行かれたのは屋上だった。

「…何でしょうか…。」

「すみません、および立てしまして…。実は、仁王君のことなんです。」

“仁王”の名前を聴いて、私の眉間に皺が寄った。

「申し遅れました。私は仁王君のダブルスパートナーの柳生と申します。ところで、仁王君は、最近目に見えて落ち込んでいまして…。もしかすると貴女と何かあったのでは、と思ったんですが…。」

「…何もありませんよ。ただ、元に戻っただけです。」

「元、とは?」

「私は単なる生徒で通行人A。所謂(いわゆる)モブキャラです。貴方達のように何かに秀でている訳でもありません。ただの普通の人間が、貴方達のように輝いている人の側にいることが間違いなんです。」

柳生比呂士は目が見透かせない逆行眼鏡の奥で何を考えているのか。そんなこと、私が気にすることなんてこれっぽっちもないんだけど。

「……私達は、アイドルではありません。私達だって、普通の人間ですよ…?普通に勉強して、部活をして、……恋だってするでしょう。」

「見解の相違だと思います。貴方達が自分のことをどう思おうとも、周りがそれを許さない時点で一種の壁が生まれているんです。特別な人と、そうでない人。貴方達が特別で、私がそうでないというだけです。簡単に言えば、身分が違うんですよ。身の丈に合った関係でなければ、亀裂が生じる。ただそれだけです。」

そんなことなか!!

ここには柳生比呂士と私しかいない筈なのに、どこからか仁王の声がした。その“どこか”は、私が間違っていなければ、今目の前にいる柳生比呂士から聞こえた、気が、するのだが……?

「え…に、お…?」

まさか、と思いつつも、柳生比呂士に声を掛けてみた。
すると、柳生比呂士ははらはらと涙を流していた。

「え…?ちょ、やだ、泣かないでよ!私が泣かせたみたいじゃないの!」

さっきまでの敬語なんて吹っ飛んでしまった。だって、目の前に居るのは柳生比呂士じゃない。

「香澄ちゃん、が、泣かせた、んじゃ……。」

涙を流す仕草で気付くのもどうよ、って感じなんだけど。でも確かに、優等生と名高い柳生比呂士が授業終了のチャイムと同時に私のクラスの前にいたなんておかしな話だ。授業を途中で抜け出す訳なんてないんだから。
眼鏡を外せば、そこには仁王の顔があった。
私に会うために、変装までしたのか、こいつ。確かに、仁王でなければ話を聴いていただろう。それが柳生比呂士だろうが他の誰だろうが。

「香澄ちゃん、…ねが、いじゃ…、俺んこと、捨てないで……。」

仁王は膝をついて、私の腰に抱きついた。
図体ばかりでかいのに、まるで子どもだ。
しゃくりあげる仁王を宥めるように、私は頭を撫でた。
すると仁王は更に泣きじゃくり、一層私に縋(すが)りつくものだから、授業開始のチャイムが鳴ってしまったのを、ぼんやりしながら聞いていた。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

2012.09.19

[*前へ][次へ#]

13/20ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!