テニスの王子様
ヘタレを拉致りました
学校に着いてからは、仁王がくっついてくることは無かった。
さすがにファンクラブの矛先を私に向けないようにと気を遣ってくれてはいるらしい。
その辺の分別はついているようで安心した。そこから躾をするとなると、私の負担が半端無いからだ。
だけど、そんなことを撤回したくなるような出来事が、この後私に降りかかる。
「香澄ちゃん!」
仁王、てんめぇぇぇぇぇっ!!
私はそのまま仁王に突撃し、チョロ毛尻尾を引っ掴んだ。
「痛い!痛いぜよ、香澄ちゃん!」
「えぇい!名前を呼ぶな!!まだここ敷地内だから!!」
いくら人気が少なくなっているとはいえ、校門付近で親しげに名前を呼ばれちゃ、何事かと視線を寄越す輩だっているのだ。
草叢に飛び込み、私は仁王に向き直った。
「あのねぇ!仁王は自分の立場を理解しているの?!」
「しっ、してるなり!だから昨日みたいに教室に行くの我慢したんぜよ?!じゃけえ、放課後待ち伏せくらいええじゃろ?!」
逆ギレか!
教室に現れなくても、いつ見られるかも解らない校門で声を掛けるのも自殺行為だと解ってくれよ!!
「……あのね、仁王。何度も言うようだけど、私は貴方と必要以上に関わりたくないの。ファンクラブが怖いからね。だから、私と仲良くしたいのなら安易な接触は止めてほしいの。わかる?」
「わかる…。解るけど、嫌じゃ……。」
はらはらと涙をこぼす仁王。
マジでヘタレだね。私ごときにそう思われてるんじゃ相当ヤバいと思うけど。
それはともかく、どうしたもんかね。
こうなると子どもの癇癪と一緒だ。
懐柔しようにもこんなに頑(かたく)なだと、何かご褒美が必要ってことか?
仁王にご褒美?考えるのも嫌だわ……。
「ねえ、なんで私なの?」
「前にも言ったじゃろ……。香澄ちゃんだけなんじゃ。こんな情けない俺を受け入れてくれたのは…。」
受け入れたつもりは毛頭ないんだが。
でも関わってしまって、こんな仁王を知っているのが私だけだと言うのなら、仁王の中でそういう括りになってしまうんだろう。
はぁ…。なんて災難。
お人好し過ぎて巻き込まれたってことですかね。
「…じゃあさ、どうしたら私に付きまとわないでくれるの?」
「………。」
悩んでるね。
私と仲良くしたいのに、付きまとわないための条件訊かれてるんだから。
「まぁ、今すぐじゃなくていいよ。でも、考えておいて。」
私はそのまま草叢から立ちあがり、それに続いて仁王も付いてきた。犬だな。
「香澄ちゃん、あの…。」
「仁王君!探しましたよ!」
草叢から出て丁度、私の近付きたくないリスト上位にいる柳生比呂士が仁王を探していたところに出くわした。
「やぎゅっ!」
仁王はそのまま私の後ろに隠れる。高身長な仁王が私の後ろに隠れられる筈もないんだけど。ささやかな抵抗ってことか?
「貴方は一体何をしてるんですか!そこの方に迷惑をかけていたのではないでしょうね?!」
「ち、違うなり!迷惑なんて…」
「かけてたよね?!」
「やっぱり…!!すみません、私から言っておきますので…。それに、最近朝連にも出てこないし…!」
「…は?朝練?何?どういうこと、仁王?」
「何でもないなり!」
「部活、出てなかったの…?」
「ち、違うなり!これは…!」
「私のこと追い回してる暇があったら部活出なさいっ!!」
「ピヨッ!!」
私はそのまま、仁王の尻尾を掴んでテニスコートへ放りこんだ。
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2012.07.12
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