テニスの王子様
ヘタレに懐かれました
「香澄ちゃん♪学校一緒に行くなりっ!」
満面の笑みでブンブンと尻尾を振って、玄関前に居たのは仁王だった。
母親に「お友達が来てるわよ〜」と言われて誰だろうと思って玄関を開けたのが失敗だった。せめて覗き穴から外に居るのが誰か確認すべきだった。
「一人で行きなさい。」
私はそのまま玄関のドアを閉めようとしたが、仁王はすかさずドアの隙間に足を滑り込ませた。どこぞの悪徳販売員だ!
「ちょ、香澄ちゃん?!遅刻するぜよ!」
「仁王と一緒に行くくらいなら遅刻した方がマシっ!!!」
「!!……わかった…先に行くぜよ…。香澄ちゃん、遅刻せんようにの…。」
くぅっ……!!
な、何よ、あの捨てられた仔犬みたいなのはっ!罪悪感ビシビシなんですけど!!
昨日の今日で“秋山さん”から“香澄ちゃん”に変わってるところを見ると、私は仁王に懐かれたらしい。非常に嬉しくないのだが。
「お母さん!行ってきますっ!」
「いってらっしゃ〜い。」
間延びした母親の送り出しをバックに、私はそのまま仁王を追いかけた。
「香澄ちゃんvvV」
はず、だったんだけど。
仁王は私のマンションの前で待機していた。ホント、まるで犬。
「…先に、行ったんじゃなかったの?」
「だって香澄ちゃんは遅刻せんからきっと一緒に行けると思うたよ♪」
はぁ、と溜息一つ。
「どうしたん?疲れちょる?」
わたわたと焦る姿も可愛い。
学校ではクールで掴みどころのないキャラで通ってる仁王に“可愛い”なんて思う私は大分トチ狂ってるのかもしれない。
そう思うと、顔が緩んでふっと笑った。
「いや…大丈夫。行こうか、学校。」
「(香澄ちゃんが笑った!!)っ!っ!!うんっ!!」
私に付いてくる仁王はまさに犬。
ちょろっと出ている尻尾がさながら動いているように見えるから大分幻覚にやられているらしい。
「ところで仁王。」
「雅治。」
「呼ばないよ。そろそろ離れて。学校もうすぐ着くから。」
「嫌じゃ!雅治って呼んでくれないとこのまま学校行く!」
なんだこの可愛い我儘は。だけど駄目なのだ。こんなところをファンクラブの女共に見つかったのなら私の明日は無い。
「…私を困らせたいの?ファンクラブにミンチにされてもいいの?」
「それも嫌じゃ!」
「じゃあ、解るよね?」
「プリッ……!」
仁王は渋々私から離れて少し先を歩きだした。
小さくなった背中が、とても愛おしい。……ペット的な意味で。あくまでペットとして!!
…って、誰に言い訳してるのよ、私。
それにしても、随分と懐かれたものだ。
これじゃまるで飼い主と犬だ。
私は、また一つ溜息をこぼすのだった。
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あとがき
いちゃいちゃまでは遠いので気長に見てやってくださいwww
2012.06.14
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