テニスの王子様
ヘタレに命令しました
正直、私はこのまま学校を辞めようとまで考えました。
だって、生命の危機ですから。
仁王雅治のヘタレな姿を見たと言うだけで。
だけど、義務教育中の私が親の権限にひれ伏すのは目に見えている訳で、今日も今日とて自分の教室へと向かうしか選択肢がないのです。
「香澄、どうしたの?顔真っ青だよ?」
「何でもない。何でもないよ、ホントに。」
クラスメート兼友人にだって言える訳がない。下手をしたら巻き込んでしまう。
と、こんな風に一日中悶々としていた訳だが。
特に何も起こらなかった。拍子抜けするくらい。
「(なぁーんだ!焦って損した!!)」
ルンルンとした気分で下駄箱に行くと、外からけたたましい黄色い声が聞こえた。
あの方向は、テニスコートがあったはず。
……絶対に関わるものか、と、私は外靴をつっかけて家路を急いだ。
そんな感じで数日が過ぎた。
仁王雅治が泣いたことなんてほぼ記憶が薄れて忘れかけていた頃にその事件は起こった。
「秋山さん、おる?」
私は友達数人と教室でお弁当を食べていた時だった。今まさに口に放り込もうとしていた卵焼きを床に落とした。あああもったいない……!!
「ちょっ!香澄!呼ばれてるよ?!!」
「チガウチガウ。ワタシジャナイネ。ホカノ秋山デスヨ。」
「このクラス秋山はアンタしかいないじゃないの!」
「あっ!てめっ!私を売る気か?!」
私は友達の手によって仁王雅治の前に押しやられた。くそう!私等友達じゃなかったのかよ!!ファンクラブ怖いって常日頃話してた仲じゃないかぁぁぁっ!!!
「ちょっと、付き合うてくれんかの?」
ギギギ、とクラスのみんなに向き直り助けを求めてみたが、無駄だった。みんなファンクラブが怖いのはこのE組の一致した意見だった。なんせこのE組にはテニス部レギュラーもファンクラブができるような容姿の人もおらず、常に傍観を決め込んでいたからだ。
私は、13階段を上る気持ちで仁王雅治について屋上へ向かっていた。
屋上に着くと、そこには誰もいなく、仁王雅治と私しかいなかった。
「…なんでしょうか。」
「あのこと、言っとらんようじゃの。」
そ、そんなことの確認のために私を呼び出した訳?!私の命を賭してまで確認すること?!!
「私、口は固いので……。って!!何なのよ!!」
「ほわっ?!!」
「あのねぇ!貴方、ファンクラブがあるって知らない訳じゃないでしょう?!!貴方と接触することがどれだけ危険なことか解ってる?!!解ってるなら私を呼び出すなんてことしない筈よね?!!」
「す、すまんかった…っ!!!」
「謝って済むならファンクラブなんていらないのよ!!ていうか、迷惑!!金輪際近寄るな!!」
一通り言いたいことを言い終えてすっきりした私は、はた、と気付いた。
そこには頭を抱えて震えながら蹲る仁王雅治がいた。
「え…?ちょ、大丈夫?!」
何事かと手を伸ばした瞬間。
「ひぃっ!!」
仁王雅治は私の手から逃れるように飛び退いた。
うん。ヘタレだ。
キミがヘタレだということを失念していたよ。というか、あの出来事自体を忘れかけてた私に思い出させたのは紛れもなく今この瞬間なんだけどね。
「えーと…、仁王、くん、怒鳴ってごめんね。だけど、私も平和に過ごしたいのであまり関わらないでほしいんだけど。」
怖がらせてしまったのは悪かった。私は仁王雅治の頭を優しく撫でた。
「秋山さん…。」
「わかるよね?」
仁王雅治はこくん、と首を縦に振った。
了承してくれたということで、私は屋上を後にした。
この時、仁王雅治に優しくしたせいで、とんでもないことに巻き込まれるとも知らずに。
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あとがき
ヘタレてきましたかね…?
2012.06.09
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