テニスの王子様
ヘタレに脅されました
ビシリ―――――
そんな擬音がピッタリな今の私の状況。
見てはいけないもの。
“あの”“テニス部”の“仁王雅治”が、泣いている場面に出くわしてしまった。
仁王雅治を凝視する私と、私を泣き顔で見上げる仁王雅治。
ばっちり視線は合ってしまっている訳で。
ばっ
勢いよく顔を反らせたとしても、私が仁王雅治の泣き顔を見てしまったという事実は消えやしない。
この場から、今すぐ、立ち去りたいっ!
「お前さん…。」
「みっ、見てませんから!!私、何も!ゴミが、目に入って、何も見えてませんから!!!」
ゴミ箱を抱えて、私は必死に言い訳をする。
見てない。貴方が泣いていた所なんて見てない。
だから、私をここから立ち去らせてください!!
ゴミ箱を抱えたまま、私は後ずさりする。だけど、視界が無い状態が如何に危険か身を持って体験しました。
「ぎゃんっ!」
木の根に足を取られ、私はそのまま仰向けにすっ転んだ。
中学生にもなってはずかしぃぃぃぃっ!!
「だ、大丈夫か…?」
仁王雅治は、私の顔を覗き込み、そのまま私の手を引いて立ちあがらせてくれた。さすが運動部。力はあるんだ。
「み、みっともないところをお見せしました……。」
「いや、いいんよ。驚いただけじゃ。それに、みっともないんなら、俺もじゃろ。」
まだぐずぐずと鼻をすする音がして、私はポケットからティッシュを出した(ハンカチは既に濡れているから)。
「あの、使って下さい。」
「…ありがとさん。」
私に背を向けて、鼻をかむ仁王雅治は、今まで聞いていた噂の彼とは大分違う。
私の知る仁王雅治とは、コート上のペテン師とまで言われるほど狡猾かつクールな人だということだった。
の、だが。
今のこの仁王雅治にはそんなもの微塵も感じない。本当にここにいる彼は仁王雅治なのだろうかと疑うくらいに。だけど、こんな銀髪は彼以外にこの学校にいないことも周知の事実なのだ。
「なあ、お前さん。」
「は、はいっ!」
「俺の名前は知っとるよな?お前さんの名前は?」
若干赤い目をして、仁王雅治が私の名前を訊いてきた。え、何事?
「えっと、…E組の秋山、です。」
「秋山さんな。下の名前は?」
「…なんでそんなこと訊くんですか?」
「質問に質問で返さんでくれ。訊いたら、ダメかのう?」
仔犬のような頼りなさげな上目づかいに、私の胸は不覚にもときめいたのだ。
「うっ…香澄、です。」
「ん。で、秋山さん。」
え。名前を訊いた意味なくね?
「な、んでしょうか…?」
「今日見たこと、誰にも言わんでくれ。」
「い、言いませんよ!てか見てませんし!!」
「そか。でもな、もし言うようなことがあったら…。」
仁王雅治は、仔犬のような目で私を射抜く。
「秋山さんに付きまとっちゃるからな。」
「頼まれたって誰が言うかぁっ!!」
何この罰ゲーム!!
こいつ仔犬のくせに、ヘタレのくせに、なに爆弾発言しちゃってんの?!!
仁王雅治が付きまとうってことは、私にファンクラブに抹殺されろってことでしょ?!!
冗談じゃない。
私はそのままゴミ箱を抱えて教室まで全力疾走した。
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あとがき
私の書くお相手って意地悪っていうか性格悪いっていうか……orz
2012.06.07
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