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テニスの王子様
楽しさを知った


「え……、桜ちゃん、大丈夫なの?」

「うう……、多分……。今日一日休めばなんとかなると思う……。」

桜ちゃんが、風邪を引いた。
中学に上がってから病気らしい病気をしたことが無かったのに。

「と、とにかく、布団入って、温かくして!!風邪はこじらせると大変だから……!」

「うん……。ありがと、香澄ちゃん……。」

幸い、今日は母が家に居てくれるから私はそのまま学校へ向かった。

「(そうだ、帰りにアイス買って行こう。桜ちゃんの好きなイチゴのアイス。)」

そんなことを考えながら、今日も一日が過ぎて行った。
帰り際、桜ちゃんから「まだ寝込んでいる」というメールが届いた。「アイス買って行くね」と返信すると、すごく喜んだ返事が返って来た。早く、家に帰ろう。

「あ!桜じゃないかよぃ!」

そう思った私に、丸井君の声が掛かった。丸井君、桜ちゃんと勘違いしてる。

「休みだって言ってたの香澄のほうだったんだな!俺心配したんだぞ?今日は昼、ミーティングがあったから一緒に居られなかったけどよ、練習ないから一緒に帰ろうぜぃ!」

「え、あ、……。」

否定する暇もなく、丸井君は私の手を掴んで校舎の外へ飛び出した。

「あ、あのっ……!」

「何だ?そうか!今日はゲーセン行こうって言ってたよな!桜の欲しいもん取ってやるぞ!」

丸井君は屈託のない笑顔で私にそう言った。いや、丸井君は桜ちゃんに言っているつもりなんだけど、私に向けられた笑顔にどうしようもなく胸が苦しくなった。

「桜?」

「あ、ううん!何でもないよ……ブン太。」

「そうか?じゃあ行くか!」

「う、うん!」

丸井君と言ったゲーセンで、丸井君がクレーンゲームで可愛いぬいぐるみを取ってくれたり、音ゲーで盛り上がったり、バスケやボーリングのアトラクションで遊んだり、お菓子がなかなか取れないと悪戦苦闘したり……。
楽しかった。すごくすごく、楽しかった。何度かこういう娯楽施設に入ったことはあったけど、隣に好きな人がいる、というだけでこんなに楽しいと思わなかった。

ごめん。
ごめん、桜ちゃん。
今だけ。
今だけ、丸井君のこと、好きな私で居させて下さい……。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

雲行きが怪しくなっていきます。

2012.05.15

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