テニスの王子様
最低、でも優しい
とにかく、幸村精市という人間は最低な男だった。
私の嫌がることを率先してやっているのではないかという錯覚に陥る程の。
その1、小テストの点数が私より上だと鼻で笑う。
その2、近付くなと言えば過剰なスキンシップを仕掛けてくる。
その3、私が読もうとした本を目の前で先に借りてしまう。
その4、お弁当のおかずを掠め取る。
その5、幸村の仕事を押し付けてくる。
などなどなど……。
病みあがりだから、などと言って、クラスメイトは幸村を甘やかしまくっている。それも私にはイラつく原因になっている。あいつのどこが病みあがりだって?!!健康体そのものじゃないか!!
「むかつく……幸村死ね……!!」
「ちょ、香澄、何事?!!」
放送部の楓と珍しくお昼を一緒に過ごしていた時だった。本音がダダ漏れたらしく、楓は素っ頓狂な声を上げて驚いていた。
「あいつは悪魔なんだよ!皆騙されてるんだよ!」
「わーっわーっ!!香澄、しーっ!!」
楓は血相を変えて私の口を塞いだ。あんたの方が何事?
「駄目だよ〜香澄〜。幸村君、ファンがたくさんいて、どこで遭遇するかわからないんだから……。そんなセリフ聞かれた日には香澄、呼び出しくらっちゃうよ〜〜!!」
あいつは……!!どこまで最低な奴なんだ!自分のファンクラブくらいちゃんと調教しときなさいよ!!
「ていうか、何なのよ……そんなファンクラブがあるくらいならそいつらに雑用押しつければいいじゃない!尻尾振ってやってくれるわよ!何で私なのよ!!」
「藪から棒になんだい?秋山さん。」
憤(いきどお)りを隠せなくなった私は、休み時間に幸村始めテニス部がたむろするという屋上に勢いだけでやってきた。幸村以外の部員がポカンと見ている中、私は幸村に掴みかかった。幸村は涼しい顔をしている。ムカつく……!!
「香澄……?」
口を開こうとした時、聞きたいけど聞きたくない声が耳に入った。失念していた。
「ま、丸井君……!!」
「えっと、幸村と何かあったのかよぃ?」
「っ……、な、何でも、ないっ!!とにかく!金輪際必要以上に接触しないで!!」
それだけ言って私は屋上から飛び出した。
そうだよ!丸井君テニス部レギュラーだもん!!あそこにいる確率高いに決まってるじゃん!!桜ちゃんと常に一緒にいる訳じゃないんだから……!!
「秋山さんってバカだね。」
教室に戻って机に突っ伏していた私に、幸村が罵声を浴びせた。そうだよ!バカだよ!!何か文句あっか?!!
「五月蠅い、話しかけんな。」
「まぁ俺は面白いモノが見れたからいいけどね。」
くっそう!!この悪魔め!!他人の不幸を見て嘲笑(あざわら)うなんて最低の趣味だよ!
ふわ
何……?
頭に、温かい感触……?
「まぁでも嫌いじゃないよ、そういうの。周りが見えないくらい必死になってるの。」
な、何、急に……?!!ゆ、幸村が私の頭、撫でてる……?!!
「うん、秋山さんの髪、綺麗だね。触ってると飽きない。」
何を言い出すんだ、このセクハラ大魔王は。
でも、思いの外優しく頭をなでられたものだから、何だか気持ちまで温かくなって、私はその手を拒まなかった。
「(早く吹っ切れるといいんだけどね……。)」
幸村が何かを呟いていたけど、それは私の耳には届いていなかった。
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あとがき
うおっ……!!
また2週間近く空けてしまった……orz
迂闊なヒロインちゃん大好きですwww
2012.05.15
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