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テニスの王子様
天使の顔をした魔王様


桜が珍しくおたおたしていたので声を掛けると以外な答えが返ってきた。

「…お見舞い?」

「うん。」

お見舞いくらいでそんなに困ることかなぁ…?

「誰の?」

「幸村先輩…。」

「誰?」

幸村とか言われても私さっぱりなんですけど。

「テニス部の、部長…。」

桜の言うことを聞いて納得した。
そう言えば、男テニって部長の顔一度も見たことなかった。
何でもギラン・バレー症候群に似た症状で治療法も無いとか言う病気で2年の最後らへんから入院しているらしい。

「ふーん、行けばいいじゃん。何をそんなに困ってるの?」

「だ…、だって部長だよ?一番偉いんだよ?嫌われたら…!」

「大丈夫。桜を嫌う人なんていないよ。桜が頑張ってるのは皆知ってるし、いい子なのもわかってる。何か言われたら私に言えばいいよ。私が桜のこと守るから!」

「香澄…、ありがとう、落ち着いたみたい。」

桜は安心したように笑った。
それにしても、病で床に伏せっていても部長であるからには相当テニスが上手いんだろうな。
そんな事を考えながら私は店番をするべく帰路についた。





今日は閑古鳥が鳴いている。
こういう日は日保ちするお菓子を焼いたり、課題をカウンターで済ませたり出来るから少し嬉しい。
仲のいい常連さんと話ができないのが寂しいけど…。
課題が一段落したと同時に店の扉が開いた。

チリンチリン♪

「いらっしゃいませ。」

「こんにちは、香澄ちゃん。」

顔を見せてくれたのは千鶴さんだった。
千鶴さんは常連さんの一人で優しいおばあさんって感じの人だ。
いつもニコニコして品のいい人で私も大好きだ。

「千鶴さん、お久しぶりですね!席に案内します。」

「ああ、ごめんなさいね?今日は違うのよ。孫のお見舞いに行くのに差し入れを持って行きたいの。」

「それなら、今作ったばかりのお菓子がありますからそちらを包みましょう。和菓子と洋菓子両方ありますから。」

私は奥の調理場に行って、羊羮とパウンドケーキを包んだ。

「お待たせしました、\680です。」

「ありがとう、香澄ちゃん。」

お菓子を受け取って千鶴さんは店を後にした。

することもなくなって、店内のテーブルを拭いていた時だった。

「あれ?」

レジの前に見慣れない傘。私が帰って来た時にはなかったものだ。私が店番をし出してから来たのは千鶴さんだけだ。
今日は午後からの降水確率は60%。雲は重そうに空を覆っている。きっともうすぐ雨が降る。

「お父さん、お母さん、私千鶴さんの忘れ物届けて来るね。」

奥にいる両親に声を掛けてひらひらと傘を見せた。

「あぁ、今日は雨だからな。早く届けてやりなさい。」

お父さん達は今日はもう店仕舞いをする、と言って片付けをしていた。
私は千鶴さんと自分の傘を持って店を出た。
確か千鶴さんのお孫さんが入院しているのは金井病院だったはず。バスで揺られること十数分。

「いつ見ても大きいよねぇ…。」

たまに体調を崩した時にお世話になる病院であるだけで特別寄ることもなかった場所だ。
それに、私は病院が嫌いだった。いや、好きな人なんていないと思うけど…。
小さい頃病弱だった私は頻繁に肺炎を起こしたり腸炎になったりよく両親、祖父母を心配させたものだった。
今は健康そのもので風邪すら滅多に引かないけど(笑)。まぁ、幼少の頃の点滴や白くて狭い病室が嫌な思い出として残っているので極力近寄りたくないのは確かだ。

受付で病室番号を聞いて、エレベーターに乗り込んだ。入れ違いにならなきゃいいけど…。
窓から見えた空は既に雨粒をいくつも落としていた。
病室の前に来ると中から笑い声が聞こえた。
良かった、千鶴さんまだいるみたい。
私は思い切って扉をノックした。

「はい、どうぞ。」

中から聞こえたのは優しそうな中性的な声。少しどぎまぎしながら私は扉を開けた。

「失礼します。千鶴さんはいますか…って、え?!」

私は目を丸くした。
だって。

「桜?!」

「香澄?どうして…?」

何で千鶴さんのお孫さんの病室に桜がいるの?!何でテニス部レギュラーまでいるの?!
認めたくないけど…、答えは一つしかないよね…?

「千鶴さんのお孫さんって、テニス部の部長だったんだ…orz」

絶対に関わらないと思ってたのに…。

「あら、香澄ちゃん、どうしたの?」

千鶴さんはほんわか雰囲気で話す。
そうだよね。
千鶴さんには可愛い孫だもん。私がどんな風に思っていても解らないよね。私は本来の目的を思い出し、千鶴さんに近寄った。

「はい、千鶴さん。忘れ物ですよ。今は雨も降って来ましたから必要だと思って…。」

私は千鶴さんに傘を手渡した。

「あら、忘れていったのね?わざわざありがとう。」

「ううん、いいの。」

「じゃあ、幸村部長のおばあさんの差し入れって香澄の店のお菓子だったんだ!それなら私が太鼓判押しちゃいます!!香澄のお菓子は絶品ですよ!」

桜はベッドに座っている男の人に力説している。
この人が千鶴さんのお孫さんか…。
濡れたような黒髪の美人さんだった。男の人に“美人”は失礼かもだけど、それ以外言葉が無い。

「はじめまして。秋山香澄です。千鶴さんにはいつもお世話になってます。」

私は会釈をした。

「幸村精市です。祖母から君の話は聞いているよ。そうか、皆とも面識があるのかな?」

幸村先輩は優しい眼差しで私を見ていた。
出来れば千鶴さんの前で不穏な空気を流したくないけど…。

「桜は私の友達です。が、テニス部の方々は知識として知ってる程度です。」

私は正直にしか答えられなかった。

「そいつはちょっと酷いのう。家にまで行った仲じゃろう?」

茶々を入れたのは詐欺師だった。

「誤解を招く発言はやめて下さい。家が喫茶店やってるから来ただけじゃないですか。しかもここにいる全員で。」

私はこの手の冗談が嫌いだ。

詐欺師は肩を竦めていた。

「じゃあ、千鶴さん、また。」

「香澄ちゃん、帰るのかい?」

「はい。用事は済みましたから。では失礼します。…と、幸村先輩。」

「ん?」

「桜を泣かせたら承知しませんからね。」

「誰に向かって言ってるの?」

周りのレギュラーが青い顔をして狼狽えている。
一見儚くて優しい幸村先輩だけど、今は背後に真っ黒なオーラを醸し出している。
魔王様じゃん…!!
でもここで怯んでなんかいられない。
桜が辛くないようにするためなら例え相手が悪魔だろうが鬼だろうが、ましてや魔王だろうが、退くつもりはない。

「貴方に言ってるんです、幸村先輩。桜は私の大切な友達だから、泣くようなことがあれば容赦しませんから。」

それだけ言って私は病室を後にした。





「ぅへあぁぁぁ〜!!!」

病院のエントランスを抜けて外に出た途端、緊張の糸がぶっつりと切れた。
それはもう、ナノ単位で繋がってた糸ですから!
身体からいろいろなものが出た気分。

「ぅえっ!気持ち悪っ!」

怖かったよ!
あの魔王が怖くない奴なんてこの世にいないよ!!緊張し過ぎて吐きそう…。でも、桜への危険が少しでも回避されたなら儲けものだ。私があの魔王の恐怖に耐えればいい。

「いつ退院するのか知らないけど…、桜を虐めたら許さないんだから…!」

きっ、と病院を睨み付けて私は踵を返した。





視線は合わなかったけど、魔王が新しいオモチャを見つけた子どものような表情で私を見ていたことは、知る由もない…。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき


こんばんは(^^)/

ゆっきーでした。

…出番少なっ( ̄□ ̄;)!!

駄目じゃん、私…orz

真田さんの祖父に引き続き、幸村さんの祖母も嘘っぱちです(^^;

某乙女ゲーの主人公から借りました。(ユキムラチヅル)



わかった方は私と同じ趣味ですね(笑)


次は…何にしましょう。


2008*10*4
2009*4*9修正
2009*8*2修正
2011.01.27修正

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