テニスの王子様
綺麗だけど残酷な人
しばらくして、担任が入って来た。
「もうお前らも知ってると思うが、幸村が退院してきた。幸村、入って来い。」
担任の一声で教壇側の扉が開く。そこから入って来たのは緑の黒髪に優しい光を灯した、儚げだけれども意志の強い瞳を持つ綺麗な人。女性とも男性ともつかない中世的な容姿の人は「幸村精市」と名乗った。(男性だと分かっていても、ちょっと疑ってしまうほどの。)
「改めまして、幸村精市です。退院したばかりで迷惑を掛けることもあるかと思うけど、また以前のように接してほしい。よろしく頼むよ。」
ふわり、と笑った顔が天使のように綺麗で、一瞬見惚れてしまった。こんな人が、うちにいたんだ、と感心した。
「席は一番窓側の後ろだ。秋山!しばらく幸村の世話をしてやってくれ。」
「え、…あ、はい…。」
突然名指しされ、戸惑って肯定の返事しか出来なかった。いくら隣の席だからって、クラス委員とか仲のいい男子とかの方が幸村君だって気兼ねしないだろうに。私は自分の返事を早くも後悔していた。
「見ない顔だね。よろしく。」
席に着いた幸村君に声を掛けられた。
「あ、えっと、3年になってからこのクラスになって…。自己紹介が遅れました。秋山香澄です。」
「秋山さんね。早速だけど、教科書、どこまで進んでるか教えてくれない?」
「い、いです、けど…。」
どこまで進んでいるかなんて、あのマメなテニス部部員が教えていないはずがないのに。どうしてこういう嘘を吐(つ)くかな。知らない女子の情報収集?だとしたらどんだけクラスを掌握したいと思ってるのかな。
「ええと、現代文は87ページ、数学は112ページ、英語は46ページ……。」
幸村君はメモをとる訳でもなく私の話も聞いてるんだか聞いていないんだかわからない表情でこちらを見ていた。なんだか、観察、されているみたい。居心地悪いなぁ……。
「……以上です。」
「うん、ありがとう。…秋山さんってさ、うちの丸井ブン太、知ってるよね?」
突然何を言い出すんだ、この美人は。
「…知ってるも何も、姉の彼氏ですけど。」
「うん、そう。キミにそっくりの。」
知ってるなら訊くなよ。しかも桜ちゃんのことも知ってるんじゃないか。しかも、なんだか不気味。くすくす笑ってるのに、瞳が笑ってない。
「秋山さんてさ、お姉さんの桜さんと顔は一緒なのに雰囲気は違うんだね。」
ちくん――
「…そりゃ、双子って言っても別の人間ですから。違うところも出てきますよ。」
「ふぅん…。ねぇ、双子ってさ、趣味とか嗜好が似か寄るっていうよね。」
な、んか、空気が薄い……?てか、幸村君、何が言いたい訳?
「今までさ、桜さんに間違われたこと、ある?」
「……容姿が一緒ですからね、何度かありますよ。」
「桜さんになり替わろうって思う事、無い?」
「何が言いたいんですか。」
「秋山さんってさ、ブン太の事好きでしょ?」
「…あり得ません。丸井君は桜ちゃんの彼氏であって私が好きになる理由なんてありません。」
一瞬、心臓が嫌な音を立てた。何で、バレたの?ただのカマ掛け?今日が初対面な訳だし、それなら頷けるけど、だけど、幸村君にはなんだか確信があるようだった。何故だかわからないけど、そんな気がした。
「可哀想だね、秋山さん。そうやってお姉さんに譲ってきたの?」
「〜〜〜〜〜っ!」
ガタンッ
「ど、どうした?!秋山?」
急に立ち上がった私を見て、担任がうろたえている。滅多に問題を起こさない私がこんな行動をとれば、十中八九驚くのも無理はないのだが。
「…先生、気分が悪いので保健室に行っていいですか?」
「っ、あ、ああ、い、いいぞ…。」
鬼気迫る私の雰囲気に担任は飲まれたようで、反射的に承諾した。
今の私に余裕なんてない。早くこの場を立ち去りたくて、切羽詰まってる。
天使なんて、真赤な嘘だ。
幸村君は、天使の皮を被った悪魔だ。
だってほら、今も私を見る眼が、新しいおもちゃを見つけた子どもの様。あの下卑た笑いに曝されるのに我慢ならない。
「秋山さん、付いていこうか?」
「結構です。」
気分を害した張本人に付き添われるなんて天地がひっくり返ったってお断りだ。
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あとがき
やったーやっとお相手登場です←
ホントに前置きが長くてすみませんorz
2012.04.26
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