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テニスの王子様
これが私の防衛規制


ヒトは、自分を護るために“防衛規制”というものがある。(“適応規制”とも言う。)

ポピュラーなのが「抑圧」かな?
嫌なことに蓋をして我慢出来るって感じ。
我慢しないで自由奔放に生きている奴もいるけど。
…誰とは言わないけど!あの人だなんて言ってないよ!

それなのに…!!
珍しく携帯が他人のメールを受信した。
家族とも桜とも電話ばかりだから、メールが来ることは滅多にない。来るメールと言えば携帯会社からのお知らせメールくらいだった。
そんな私の携帯に知らないアドレスから?
添付データもなく、(あり得ないかもしれないが)ウイルスの危険は無いようだった。





見なければ良かったと後悔した。





件名:幸村精市です
――――――――――
会いに来てよ。
来ないとキミの友達に
何かするかも。





本当にさぁ!
何なの?
私の個人情報何処から漏洩(ろうえい)した訳?!
きっと見ない振りも出来ないよね……?
桜、無事でいてっ!!





幸村先輩の病室を訪れたけど、そこにいるべき部屋の主はいなくてもぬけの殻だった。検査か何かかと思って待つこと10分。
ノックの音と共に入って来たのは看護師。

「あら、幸村君いないの?検温の時間なんだけど…。」

看護師も幸村先輩の行方を知らないらしい。
と言うより、幸村先輩は度々姿を消していつの間にか帰ってくることがあるらしい。いつもきちんと帰って来るから看護師も重要視していないみたいだ。
それだと私が困るんですけど…。
とりあえず私は病室を出た。幸村先輩を知らない私は彼の行きそうな所に皆目見当がつかない。
でも、アレだよね。
ナントカと煙は高い所にいるってやつ。
あと、権力者。幸村先輩が「ナントカ」とは言ってないよ。でも、ある意味「ナントカ」だと思うけどね。
自分の直感を信じて屋上に行ってみた。
抜けるような青空の下、幸村先輩はベンチに座っていた。声をかけるのが躊躇われるほど儚(はかな)くて、幸村先輩が今にも消えてしまいそうな錯覚を起こした。

「せんぱ…。」

思わず声をかけたことを後悔した。
幸村先輩が泣いているような気がして…。

「やぁ、君か。」

でも、振り向いた幸村先輩はこの間と同じ柔らかい笑顔で私を見た。

「…幸村先輩が呼びつけたんじゃないですか。」

気まずい雰囲気を払拭(ふっしょく)したくて私はなるべく気取(けど)られないよう言葉を発した。

「へぇ、俺のせい?」

その笑顔が怖いです。
それと同時に哀しいです。
壁を感じるから。

「桜は?」

「今日は来てないよ。」

「え…?だって…。」

「俺は一言も彼女が来てるとは言ってないよ。」

そーですね!!
騙された私がバカでした!

「じゃあ、幸村先輩の顔も見たし(桜いないし)私帰ります。」

「ちょっと待ちなよ。」

わぁぉ。
絶対零度の微笑み来ちゃったよ〜。見なくてもわかるくらいだよ!!
怖くて後ろ見れないよ!!
背後からのオーラで解るよ!!後ろ見たら最期(!)

「こっち向きなよ。相手の方を向かないで話するわけ?」
「はいぃぃっ!!!」

ギュッと目を瞑って振り向いた。

「…あのさ、そんなに怖がらないでよ。」

魔王様の雰囲気が優しくなって、恐る恐る目を開いた。





「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」

「ヒトの顔見て叫ぶってどういうこと?」

だっだだだだって!
ちかっ!
顔近っ!
美形のドアップ!!
マジで心臓に悪いっ!!

「だって幸村先輩美人さんなんですって!あんなに顔近かったら誰でも驚きます!!」

必死に抗議しているのに、幸村先輩は楽しそうに笑っている。癪(しゃく)だけど、さっきの拒絶したような表情よりは大分ましだ。
ずっとそうやって笑ってればいいのに…。

はた、と考え始めた。
何だ?
別に、幸村先輩が笑おうが泣こうが関係無くない?だって、先輩は桜を傷つけるかもしれない対象で、いわば私の敵に近い存在であるわけで…。
魔王だし…。
今日だって脅されてここに来た訳だし…。だから、何でこんなに打ち解けてるの、私?って感じが…。しかも先輩はテニス部じゃん。桜を束縛する悪玉じゃん…。
敵に塩を贈ってるなんて、どうかしてる。
何コレ?
何なの?
敵に愛情持つなんて、ストックホルム症候群じゃあるまいし…。

「どうかしたの?」

幸村先輩が心配そうにこちらの様子を伺う。

「…何でも、無いです…。自分の考えてることがわからないだけですから…。」

「本当にわからないの?」

「え…?」

いつの間にか、幸村先輩は私の目の前に立っていた。私、さっき1mくらい離れたはずなのに…。
私は思わず一歩後退(あとずさ)った。
幸村先輩の表情が一瞬ヒクリ、と動く。

「何で離れるのさ。」

「美形のドアップは心臓に悪いんですけど。」

「その割りに冷静だね?」

うん、そう。
何だか急にストン、と気持ちが何処かに落ちた気分なんだ。自分のことなのに、よくわからない。さっきまであんなに動揺してたのに…。
そんな事を考えている間に幸村先輩が執拗に私に近付こうとするから私は2歩3歩と後退る。
いくら屋上と言っても、面積に限界はある。しばらくして、私はフェンスを背に追い込まれた。

カシャン

金属のぶつかる音が耳元で響いた。
何故か幸村先輩の腕が、私の逃げ道を塞ぐように身体の両脇にある。
目の前には幸村先輩の綺麗な顔。

「何だか、イライラするよ。」

顔は笑っているのに、瞳が笑っていない。私は何も言えなかった。
多分、怖いんだ。
今まで短いなりにも見てきたどの幸村先輩とも違う表情だから。

「さっきまで駄々漏れだったキミの心が、今何も感じられない。どういうこと?」

「…そんな事言われても困ります。私にだってわからないんですから。」

幸村先輩は眉を潜めた。

「そう…。」

先輩は、そう言うとゆっくりと私から離れた。

「今日はもう遅いし、帰してあげる。」

振り向きもしないまま、幸村先輩は階段に向かって歩き出した。
私は、しばらくその場で立ちすくんでいた…。





あの後、どうやって家に帰ってきたのか覚えていない。気付いたら午前3時で、私は服のまま布団に潜っていた。
アレは、「逃避」だ。
自分の許容範囲外のことが起きたから考えることから“逃げた”。
私の心を護るために…。





逃げたかったの。
幻覚だと思いたかったの。
きっと、自分の本当の気持ちじゃ無いから…。










――惹かれてる、なんて。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき



アレ?
逆ハのはずなのに…(-_-;)

と、思う方々、すみません(o_ _)o
表現の仕方がへたくそで…(-_-;)

ヒロインちゃんがゆっきーを好きになった訳では無いんです。

私は大好きですけど(笑)

ストックホルム症候群って、DVなんかでよく言われる人間の考え方、みたいなやつでして…。
普段酷い事されてもちょっと優しくされると、「この人の傍に居なきゃ」って感じになっちゃうやつです。
愛とは違うんですよ。
私の解釈ですけど…(-_-;)
逃げることから逃げた、みたいな…。
そんな感じです。
ヒロインちゃんはちょっと揺れてます(^^;

“好き”まで行かなくても“敵じゃ無い”くらいになるくらいです。


2008*11*26
2011.01.27修正

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あきゅろす。
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