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テニスの王子様
平和に過ごすことは難しい


昨日の一件があって、私は3-Aの前に立っていた。
流石に3年のフロアにいるのは気まずかった。道行く先輩達にじろじろと見られ居心地が悪い。
さっさとお礼言って帰ろう!
意を決して私は教室のドアを開けた。

一番ドアに近い人に声を掛けた。

「あ、あの、すみません。」

「ん?どうしたの?」

優しそうな女の先輩が返してくれた。

「えと、跡部さんって居ますか?」

教室がざわめき、私に視線が集中する。

え…?
何?
何だか敵意丸出しの視線をひしひしと感じる。

「跡部君に何の用?」

さっきまで優しそうだった先輩も声のトーンが下がっていた。



…怖い…。



「あ、の、わ、…私…。」

目の前がぐらぐらする。
視界が滲んでぼやける。
思わず後退ると何かにぶつかった。
壁にしては柔らかい。

「アン?何だ、秋山か?どうした?」

「あ、とべ、さ…。」

「おいっ?!」

急に足元がふらついて視界が大きく反転した。
呼吸が荒い。
息がうまく吸えない。

これって…、過換気?!


「おいっ!秋山?!」

跡部さんが私を支えて真っ青になってる。

ヒュ、ヒュ、と短く呼吸を繰り返し、だんだん意識が遠退く。
駄目…、こんなところで意識失っちゃ…。

「…ヒュ、か、紙袋、…か、ビニール袋…。」

右手をさ迷わせながら袋を探した。
跡部さんが「袋持って来い!」って怒鳴ってるのを遠くから聞いている様だった。

「秋山!袋持て!」

口元に当てられた袋を必死で掴んで呼吸を繰り返す。
徐々に二酸化炭素が増えて呼吸が整い出した。





「大丈夫か…?」

ぱたり、と袋を口元から離した私を心配そうに跡部さんが見ていた。

「は、い…。ありがとうございました…。助けてもらったの、3回目ですね。」

私は過換気のせいで体力消耗し、弱々しく笑った。

「こんなところまでどうした?」

「跡部さんに助けてもらったので、お礼を言いに来たんです。まさか過換気になるとは思わなかったんですけど…。すみません、みっともないところを見せて…。」

私は覚束(おぼつか)ない足取りで立ち上がった。

「おい、無理に動くな。」

「大丈夫です。お騒がせしました。」

ペコリと跡部さんとその辺にいた野次馬に頭を下げた。

「あの、大丈夫…?」

さっき対応してくれた先輩も真っ青になって私を心配していた。

「すみません、先輩。どうか気にしないで下さい。」

そう言って、私は階段を降りて教室に向かった。





そう言う噂ってすぐに流れるんだね…。
次の日には、「3年の教室前で意識を失った転校生」と言う大変不名誉な通り名がついていた…。
失ってないし。

そして、「跡部さんに介抱された」と言うことで、羨望と嫉妬の視線に晒される羽目になった。
介抱って…。
対処したのは自分だしなぁ…。

跡部さん、明らかに過換気の対処知らないと思う。
突然倒れた人みたら誰しもパニックになるだろうし、仮に知ってたとしても咄嗟に出てこないものかなぁ?

「秋山さん、学校来て大丈夫なの?」

隣の席の鳳君が心配そうに声を掛けてきた。

「大袈裟だよ。過換気になっただけだから、落ち着けば何ともないよ?」

ホントに何でもないんだ。
今まであんな風になったことはなかったから、正直自分でも驚いている。
…それだけ、あの人達の敵意剥き出しの視線が怖かったんだろう…。あんな目に逢うのはごめんだ。
私は平和に暮らしたい。
そのためには、テニス部に関わらなければいい。
ここ数日でテニス部がただのミーハー集団に囲まれているだけではないことがわかった。
陰ながら憧れを抱く人も多く、この学園の実に9割強がテニス部に心酔していると言っても過言ではない。

そんな状態でテニス部と関わるなんて…!

自殺行為に他ならない。

鳳君…はクラスメートだし、一昨日よろしくしちゃったから、いきなり避けるなんてできない。
芥川さんも然(しか)り。
だけどなるべく人目につかないところでしてもらう様に頼んでおこう。
後の人は顔くらいしか知らないし、自分から関わらなければ大丈夫だよね?





甘いよね。
ホントに私、世の中嘗めてかかってました。
…てか、この学園を嘗めてました。
単なる金持ち学校じゃなかった。

委員会や部活は強制参加だし、課外活動も多い。
それに、魅力的なスポットがたくさんある。
そこかしこでテニス部員を見つけてしまう…(-_-;)

とりあえず、何かに入らないとならないと言うことで、校外活動委員になった。
ボランティア活動程度なら何とかなるかと思ったからだ。
部活は園芸にした。
草花は好きだし、野菜を収穫出来ればスイレンの餌にも出来る。
これで文句は言われないかな…?


それから私は身をひそめるように学校の中を探索した。
早く地理を覚えてテニス部に遭遇しないルート、万が一遭遇しても見つからないうちに別ルートで目的地まで行くためだ。

「…確かここを曲がると屋上に続く階段があったはず…。」

曲がり角でキョロキョロと視線を走らせる。
自分の記憶に間違いがないことを確認して次の場所に向かおうとした。
…が、振り返った数メートル先に跡部さんを見つけてしまった。

私は咄嗟に屋上へ続く階段の扉を開けて外に出た。
たぶん、見つかってないはず。
ばくばくと言っている心臓を落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。
ふと空を見上げると、抜けるような青が広がっていた。
いつの間にか梅雨もあけ、カラリとした天気が続く。
まだ若干涼しい風が頬を撫でた。

ほんのちょっとの好奇心。

私はそのまま階段を一段ずつ屋上目指して昇っていった。
少しずつ近づく空を見上げ、浮き足立っていた。
あと1階分のところで一度見たことのある顔がこちらを一瞥した。


キノコ頭…。


なんて不運。
会いたくないテニス部に会うなんて…orz

「こ、こんにちは…。」

とりあえず、挨拶をしてその場を通り過ぎようとした。

「何の用だ?」

…は?
別に用と言う用なんてないけど…。

「用が無いならさっさと行けよ。」

キノコ頭は不機嫌極まりない声と表情で私を見ている。
…何で私こんな風に言われてるんだろう…。

「…邪魔したみたいですみません。」

悔しいけど、これ以上ここにいるとまた何か言われそうだから、私は踵を返して一番近くの校舎への扉に手を掛けた。

「これだからミーハーは困るんだ。」

少し上からキノコ頭の声がした。
私、キノコのファンだとでも思われたのか?
冗談は止して欲しい。
何か凄く不愉快。

「別に貴方に用があってここに来た訳じゃありません。大体、私はテニス部と関わりたくないし、貴方の名前だって知らない。学園の人が全て貴方の名前を知っていると思うなんてちょっと自意識過剰なんじゃないですか?」

まくし立てるように私は言いたい事を言って校舎へ入った。

言い逃げと言われても構わない。
これ以上関わりたくない。
どうせ私はまだまだ子どもなんだ。
あんな事を言われてカチンと来たんだ。
だから、ケンカ腰になった。
この学園で平和に過ごすことって、出来るのかなぁ…。
男子生徒とケンカしてる時点で既に平和じゃないよね…。明日から彼に会いませんように…!!





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき


久々更新ですね…( ̄□ ̄;)!!


ヒロインちゃんの周りがだんだんと騒がしくなる予定です(^^;


よろしければお付き合い下さい(^^)


2008*10*3
2009*11*23修正
2012.04.27修正

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あきゅろす。
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