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テニスの王子様
受診日


香澄の前には、白衣を着た初老の医師が検査結果を所見していた。
カルテにさらさらと達筆な文字が記され、ピリオドを打って医師が香澄へ向き直った。

「うん、経過はいいみたいだね。」

「はい、薬が効いているので…。ただやっぱり少し眠くなりますね(^^;」

「まぁ、効能が強いと必然的に副作用も強くなってしまうのが現状だからね……。次はまた何もなければ1ヶ月後でいいね。」

「わかりました。」

香澄は籠に入れた荷物を持ち、診察室を出た。
別に病気という病気ではない。
単なる花粉症だ。
ただし、香澄にとっては重大だが。
香澄の思考は常にマジックをするためだけにある。
身体もその為の道具だ。
体調管理は万全を期したい。

会計を済ませ、ぶらりと中庭へ出た時だった。

「あーん!うわーん!」

小さな女の子の泣き声が聞こえてきた。
それほど大きくない木の下で踞(うずくま)って泣いている。
泣いている子を放って置けないのも香澄の性分だ。

「お嬢ちゃん、お名前はなんて言うの?」

「み、美羽……。」

「美羽ちゃんね(^^)どうしたの?」

泣いている美羽と視線を合わせるように香澄は屈(かが)みこんだ。

「ひっく、ひっく…おが、おがあざんに、もら、っだ、ふうせん……!」

小さな指が指し示す方を見やると、真上の木の枝に赤い風船が引っかかっていた。

「お母さんに貰った大事な風船なんだね?」

繰り返して訊くと、美羽はひとつ大きく頷(うなず)いた。

「わかった!お姉ちゃんがとってきてあげるから!」

「ぼんど?!」

「うん、だから……。」

香澄は美羽の頭を撫で、両の掌を美羽に見せた。

「?」

パン

「?!!」

香澄が手を合わせると、手の中にはピンクのハンカチが乗っていた。

「せっかくの可愛い顔がぐしゃぐしゃだよ?涙を拭こうか?」

美羽は目をぱちくりさせてハンカチを受け取った。

「おねえちゃんすごい!いまのなに?!」

涙を拭きながら美羽の瞳はキラキラと輝いていた。

「ふふっ、それは風船取ってきてから教えてあげるね(^^)」

風船が引っかかっている枝はそこそこ太く、乗っても大丈夫とふんで、香澄は木登りを始めた。

「ん、しょ……っと。」

手足を掛けるのに丁度良い凹凸があり、香澄はあっさり風船を手に取った。

「美羽ちゃーん!取れたよ〜(^-^)ノ~~」

手にした風船を割らないよう、香澄は木を蹴りあげて飛び降りた。

「わぁ…!!」

軽々と着地した香澄を見て美羽はより一層キラキラとした眼差しをしていた。
香澄にとってこれ以上の至福はない。
観客の笑顔や驚いた表情、次は何をするのかという期待。
こういう時の表情が見たくて香澄はマジックをしていると言っても過言ではない。

「おねえちゃんはてんしさんなの?!すごいすごい!ふわってとんだよ!」

「ふふふ〜、天使では無いなぁ〜(o^v^o)」

「じゃあ、じゃあ、…まほうつかいさん?」

「ん、そんなとこかな?」

「すごーい!!ほかにはどんなまほうつかえるの?!」

香澄はねだられるままに美羽にマジックを見せた。
美羽は泣いていたことも忘れ、歓喜の拍手を送っていた。

「おねえちゃんすごい!ねぇ、またあえる?」

「美羽ちゃんはいつ病院に来るの?」

「んとね、おかあさんがにゅういんしてるの。美羽ね、まいにちおかあさんにあいにきてるよ!」

「わかった。私は来週また来るから…美羽ちゃんのお母さん、何階にいるの?」

「えっと、5かい!」

「ん、また新しい魔法見せてあげるね。」

「やったぁ!おねえちゃんやくそくね!」

香澄は美羽と指切りをして病院の中へ戻ろうと踵(きびす)を返した。

ごつっ

「(え………?)」

振り向き様に後頭部に衝撃を受け、香澄の意識は遠退(とおの)いた。





______________ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

病院と言えば、あの方ですね(^-^)b


2009*11*10

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あきゅろす。
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