結城 慶士
帰り
『今日は、何時に学校終わるの?』
放課後開いたメールに、驚いた。
昨日メアド交換した、結城くんからの受信メールだった。
『今、終わったよ』
彼に返信する。
「美乃里ぃー!今日うちらカラオケ行くけどどーするー?」
「え?あ、えと、今日は…ダメ、かも…」
「そっかぁ、じゃあまた今度。じゃあね!」
夏菜とチハルが手を振りながら教室を出ていく。
私、なに断ってるんだろう…。
今日、何も予定ないくせに……
駅のホームについて、5:20の電車があるのがわかった。
あと15分後だ。
ケータイを開いて、メールがきているか見たけれど、結城くんからの返信はなかった。
何の用事だったんだろう。
少し、気になる。
15分後、彼からの返信がないまま、駅のホームに電車が入ってきた。
今日は乗っている人が少ない。
あーぁ、私は何にドキドキしてたんだろう。
今日は駅前の本屋にでも寄って、ちょっと時間潰そうかな。
『東石田〜東石田でございます』
アナウンスが流れて、電車が止まった。
ブレザーを着た東高の生徒が数人乗ってくる。
昨日の茶髪の男の子も乗ってきた。
…けれど、彼は…結城くんはいないみたい……
「でさ、あの山崎がだぜ!?」
「マジで!?」
東高の生徒がたわいもない話をする。
「あ、なぁ、あれ」
茶髪の男の子が他の男子に肩を叩かれる。
『ドアが閉まります』
「あ、ちょ、待って!」
ガン!という音と共に、扉が開く。
扉が開いて…頭がのぞいた。
「…あ」
結城くんだ。
「あ、慶士。すばらしい駆け込み」
茶髪の男子が茶化すように彼の肩を叩いた。
けれど、彼は振り向かない。
彼の黒のスニーカーは、私の方へ向かって歩く。
「……この電車だと思った」
倒れ込むように彼が私の隣に座る。
なんだか少しドキドキした。
「…あー、めちゃくちゃ走った」
彼が、呟いた。
夕日が、海に落ちていくのが見えた。
海外沿いを走る列車の窓に、沈みかけた茜が差し込む。
眩しくて隣が見えないけど、たぶん横にはゆったりと座る……彼がいる。
あと数分すれば、有栖川に着く。
なんで黙って隣に座ってるの?
何か私に言いたいことがあるんじゃないの?
ただ混乱するばかりで。
早くこの気まずい緊張感から解放されたかった。
揺れる車内に、東高の男子の声が響く。
ただ何を話しているのかすら、私には届かなかった。
『有栖川〜有栖川でございます』
扉が一斉に開き、私も席を立った。
隣の彼も立ち上がる。
結局彼は、何も言わなかった。ただ隣に座っているだけだった。
人の流れに乗るように、私も駅のホームへと下りる。
彼も私の後ろについてきた。
どうしよう、緊張するんですけど。
無我夢中でひたすら前だけを見て歩いた。
「きゃっ」
帰宅途中のサラリーマンと肩がぶつかり、よろめく私。
とっさに彼が私の腕をつかんで、私は転ばずに済んだ。
不思議。
そんな気がしたの。
私、今日は転ばない気がしたの。
改札を出て、私は思い切って振り返ることにした。
そういえばメールの返信がなかったし!
「あのさ!」
「……ねぇ」
足を止めて勢いよく振り返る。
と、同時に彼の声。
やっと口を開いた彼に、私は少しだけ呆然とする。
なんというか……とても、マイペース。
「……なに?」
メールの返信について問うのは止めて、彼の顔を覗く。
やっぱり穏やかな瞳。
「…今度の日曜、ひま?」
「………え?」
「オレ、サッカーの試合あんの」
彼がかすかに笑って、私を見る。
笑うと、さらにやさしい瞳。
「あ、えと…」
サッカー部なんだ?
今週試合なら、今日練習は?
色んな疑問が浮かぶんだけど…
「…うん、行く、行くよ。どこでやるの?」
答えは決まってる。
「うん、あのね」
彼が笑って頷いた。
無口だったり、素っ気なく笑ったり、なんだか変な人。
でもただひとつ、言えること。
全然それが嫌じゃないの。
急に今週の日曜日が楽しみになってしまったの。
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