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結城 慶士
帰り道



『東石田ー、東石田でございます。お降りの際は忘れ物にお気をつけください』

アナウンスと同時に、扉がガラッと開く。

開いた瞬間に、バチッと合わさる目線。




真っ黒な髪と紺のブレザー。
そして緑のバッチ。

……今朝の彼だ。



今度は走ってきたのではなく、……雨で濡れたのだろう。
前髪だけでなく、全身がビシャビシャである。

「……最悪。帰りもラッシュなんて」


彼が呟いて乗り込んできた。
その後ろに、茶髪の男子が乗ってくる。

「ま、いいじゃん。代わり練習ないんだしさ」
「まぁね」


入口の角に立っていた私の横に彼が立つ。


向こうは気付いてるのかな。
今朝も私同じ電車だったよ…。


「そういや慶士、おまえ化学の宿題した?」
「いや?オレやらない主義」
「バーカ。今度の成績の半分アレだぜ?」
「マジで?」


彼の何気ない話に、夢中で聞き入る私。

名前、『ケーシ』っていうんだ…


「おまえ今度こそダブるかもな」
「不吉なこというなよ」
「でも鈴木が言ってたぜ〜?『結城は本校初の留年かも』って」
「マジで!?鈴木が言うとリアルなんだけど!」

名字、『ユウキ』って言うのかな……?








「…………………ぇ、……ねぇ」


肩を叩かれて、私ははっと顔を上げた。
「え!?ハイ!」


顔を上げると、『ケーシ』くんが、私の肩を叩いたようだった。


「キミも有栖川でしょ?ここで下りなきゃ」
「え?」

目を見開いて扉の外を見る。
ホントだ。気付かなかった……もう有栖川だ。




「うわ、椿女子じゃん。慶士いつの間に知り合い!?」
「いや知んないけどさ。とにかく下りるわ。じゃ」
「おー、じゃあな〜」
茶髪の彼が、私と『ケーシ』くんに手を振った。
やばい、なんか知らないけど、心臓バクバクしてる!








「あ、あの…」
ありがとう、と言おうとしたが、彼はスタスタと改札を目指して歩いていた。
「あ、あの、ちょ…」


必死に追い掛けるが、人が多すぎて追いつけそうにない。


……けれど。



「うわ、全然おさまってもねーや」

駅を出たとき、彼が空を見上げて立っているのが見えた。


「あのっ!」


彼が気付いて、こちらを見る。


黒髪の少し短めのショートカット。
穏やかな瞳。
きちんと着た紺のブレザーがよく似合ってた。

「……あの、ありがとう!私下り過ごすとこだった!」
「ああ、ポケッとしてたね」


彼が素っ気なく笑う。
でも、全然嫌な感じしなかった。


「で、そのお礼に…」


彼の優しげな目がなかなか見られなかった。
なんだかすごく恥ずかしかったの。



でも、うん。
ここで勇気出さなかったら、私ダメな気がして。

右手に持っていた傘を差し出す。


「……どうぞ、使って?」



彼が目を丸くする。




「…え?キミはどうやって帰るの?」
「…あ、私は、親に迎えに来てもらうのっ!」

「……ふぅん」

不思議そうに私を見る彼。


「いや、いいよ」



彼が首を振った。
あ、いらないお世話だったかな。

ふと後悔の念が混じる。

私、すごくうざかったかな。








「オレ、西町に住んでるんだけど、そこ通る?」
「え?」


「キミの傘で一緒に帰ろ」


『ケーシ』くんが私の右手から傘を取ると、空に向けてそれを広げた。
パンと音を立てて開く、ビニール傘。




「オレ、結城慶士。東高に行ってんの。キミは?」
「…あ、えと…、柄園、美乃里」
「柄園さんね」



彼が歩き出した。


「…?入らないの?」
「あ、は、入る」




小走りで、彼のさす傘に入った。






歩く触れる肩に、すごくドキドキして。

別れ際に交わしたアドレスに、すごくワクワクした。







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