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秦 斗真
揺れる気持ち




どのくらい、そうしていただろう。



いつの間にか、眼下に広がる家々の明かりが数えられるほどにまでなっていた。
東の空が、ほんの少しだけ明るい。
そうか…、朝か。

急に寒くなって震えた。
彼の髪が左肩で風に揺れている。
長い睫毛が、かすかに震えていた。

…どうしよう。
どうしたら、私は彼の力になれる?



「…ごめん」
彼が私の肩から頭を持ち上げる。
もっと、寒くなった。
寄り掛かってもいいんだよ、まだ。


「寒いでしょ?」
私が上着を広げて、彼に入るよう導く。
「…寒い」
彼が素直に私の上着の中に入った。
密着する体に、胸が震えてる。


「美乃里…」

彼の甘い声が、朝もやに消える。
「なに?」
「キス、しようか」













「は?」

ちょっとそれはないでしょ。
そう言うかのように、顔を歪ませる。

おいおい、やっぱり私の隣にいる美小学生は、エロガキに違いない。

「ちぇっ、いいよ。もう」
彼が口を尖らせて、すねた態度をとった。
私は不本意ながら胸が熱くなって。

…もう!!


彼の顔を覗き込むように顔を出す。
彼が気付いてこちらを見た。

顔、赤いだろうな。
赤いけど。


ぎゅっと目を閉じる。



「…美乃里」

彼のかすかに冷たい手が私の左頬に触れた。
優しく触れる、熱い唇。


その声、好きよ。















「美乃里!斗真くん!どこに行ってたの!」
真っ青になってお母さんが駆け寄ってきた。
どうやら斗真くんのお母さんとうちのお母さんが、いつの間にか消えた私達に心配して、家の外まで出てきていたみたいだ。
「ちょっと朝日を見に」
毛布をかぶせるお母さんに、斗真くんが冷静に答える。
「こんなに体冷えちゃって!」
斗真くんのお母さんが安心したように、斗真くんの肩を抱いた。
「あっ…」
玄関に消えていく斗真くんに声をかけようとした。
でもかける言葉が見当たらなくて。

「…ありがと。美乃里」

斗真くんがかすかに笑った。










「犯罪だ!」
「人はそれを淫行と呼ぶ!」
「ちょ、夏菜!チハル!声大きいよ!」
真っ赤になって、立ち上がる二人を押さえ込む。
「朝日を背景に濃厚なキス!?美乃里、ごめん!ぶん殴りたい!」
「夏菜!私は美乃里の腕押さえるわ」
「わ〜!二人とも!」
私がジタバタと暴れると、夏菜が不機嫌そうな顔をしてイスに座った。
「…夏菜?」
「いいな、美乃里は」
「…夏菜」
最近夏菜は雪村先輩にフラれた。
夏菜自身は明るいけど、ホントはすごく落ち込んでいることを私もチハルも知っている。
「で、美乃里は彼が好きなの?」
チハルも夏菜の隣に座って、頬杖をついて私を見上げた。
「え!?」
「好きじゃないの?」



…えっと。


答えがすぐには出なかった。どうなんだろう。流されている気がする。
だって相手はまだ12歳なんだよ。
私と5つも違う。
好きになる対象じゃない。


でも。
じゃあ彼は、何なんだろう。
こんなテキトーにやってて…いいのかな。












「美乃里!」
家の前で、聞き覚えのある声に呼び止められる。
その声で一瞬胸が弾んだ。
でも冷静な気持ちが私の鼓動を静止する。
「…斗真くん」
振り返ると、ニッコリ笑った斗真くん。
冷静な私は、彼の瞳が私をどう映し、どう捕らえているかわかった。

はっきりとした好意。



だけど…ダメ。
ダメだよ。
歳が…



やっぱり弟だよ。





「なに?どうしたの?」
少しかがんで、彼の視線に合わせる。
その態度に彼の顔がかすかに歪んだ。
明らかに子供扱いした態度。…ゴメンね、斗真くん。


キミの気持ちには、応えられない。




「いや、別に、用って用は…」
「そっか。じゃあこれから勉強するから」
家の門に手をかける。
彼の悲しげな視線を背中に感じた。
「何時まで、勉強?」
家の扉を開けた瞬間、斗真くんの猫撫で声。



なんと返そうか迷った。

でも期待させちゃいけない。
それはわかった。
視線が泳ぐ。口がカラカラに渇いた。





「…ずっとよ」

振り向きもせずに、戸を閉めた。




扉の向こうの彼を想像することすら怖かった。
出会って少し…こんなに彼のペースにハマルなんて。

キスなんて、受け入れちゃダメだった。
彼を受け入れちゃ、ダメだったのに。



…ごめん。




その言葉が。胸を強く叩いて。

ごめん。
私。



キミの柱になりきれなかった。








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