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秦 斗真
首筋に




朝になって、軽いだるさが体を襲っていた。

濡れて帰ってきたせいだ。風邪を引いてもおかしくない。


春先とはいえ、まだまだ寒いから…





そんなことを考えながら玄関を開ける。

温かな日差し。
昨日の夕方とは打って変わって清々しい朝を迎えている。
木々には緑が増え、葉が朝露で光っていた。


けれど私の気持ちは、憂鬱で重たくて。
これも全部、あのエロガキのせい…。









「おはよー」

まだ少し高い声で、私にかけられる挨拶。
眉を潜めて振り返る。


そこには黒いランドセルを背負った、…斗真くん。




「…おはよう」

かすかに頬が赤くなって、悔しそうに彼を見た。

なんだかんだでやっぱり美少年。
朝の光を浴びた彼の顔は、とても綺麗で。
悔しいけど、女の私よりかわいいし。

薄く結ばれた唇が微かな笑みを浮かべていた。
それに気付いた私は、ムカッとして、足早に歩き出した。


「あっ、ちょ、待ってよ美乃里!」

そう言って私の隣に駆け寄る彼。

「昨日のこと謝りたいんだ。ごめんね?」


それでも無視する私。

あれは遊びなんかじゃなかった。危うく私、小学生に強姦されるところだったんだ!

「でもあんまり美乃里嫌がらなかったね」

カッと赤くなって立ち止まる。
そして肩を並べる斗真くんを見た。

「…図星、かな?」


生意気に笑って私を見上げた彼。
怒りを通り越して恥ずかしい。


…図星、だった。

「そっ、そんなことない!サイテーだよ!!じゃあね!!」
ぷいと顔を背けて、駅へと足を速めた。

「あ、美乃里!」

彼が私を呼び止める。

でも無視!
嫌い!

あんのエロガキ!!













「昨日の合コンは、雪村先輩以外はハズレだったと、吉川夏菜は思った」

夏菜が私の席の前で、小説風に言い出す。
まるで国語の時間の音読のように淡々と発表する夏菜。
それを私の隣の席で、チハルがウンウンと頷いていた。

「…そうなの?」
「そうなの」
チハルがハンカチを取り出して、涙を拭く。
「そうなんだ…」
私はその二人のテンションの低さに、苦笑した。
でもやっぱり昨日は合コンに行くべきだったよ。

「…あれ?」
夏菜が私を見て、首を傾げる。
「え?何?」
夏菜が勢いよく私の顔に顔を近づけた。
「うわ!なに!?」
驚いて悲鳴をあげると、夏菜が私の横の髪を掴んで、チハルに叫ぶ。
「博士!こちらを見てください!」
夏菜がチハルを呼ぶと、チハルも驚いて声をあげた。
「美乃里!?あんた何してたの!?昨日!!」
「…え?昨日?」
困ったように返事をすると、夏菜がすぐさま鏡を手渡してきた。

「見なよ!首!!」
「え…」

鏡でうなじを見る。
そこには赤く内出血した跡…
「どうしたんだろ、ここ…」
「『どうしたんだろ…』じゃないでしょ!それ、どー見てもキスマーク!!」
「え!?」

私が驚いて声をあげる。
キスマーク?キスマークって…


昨日の神社の出来事を思い出す。
そうだ、彼、私のうなじに…

いまだ残る、甘い痺れ…



「あの、ガキ…」

小声で呟いている間、夏菜とチハルがキャーキャーと声を上げる。

「あんたウソ下手だなぁ!男いんじゃん!合コンの必要なかったね!」
「ちょっと、相手誰なの!?早く言ってよー!」
「え、ちょ、ま」
私の言葉を聞かずに、チハルと夏菜は頬を染めた。

美乃里は奥手だと思ってたんだけどね。
いよいよ女か。

って、そんな話にまでなってる!

「ち、違うこれは!」

言いかけて、黙った。



…彼の、せい?

彼が、私を無理やり押さえ付けて、ここにキスした?




違う。


…そんなに抵抗、してない。




『でもあんまり美乃里、嫌がらなかったね』


斗真くんの生意気な笑顔が、私の脳裏から…離れない。





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あきゅろす。
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