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秦 斗真
お隣りさん



「6時に集合ね」
放課後の教室で、チハルがそう叫んだ。
合コンに呼ばれた私、夏菜、そして他3人が頷く。


まだどこかに、これで良かったのかっていうシコリが残っている。
でももう逃げられないよね。

合コンだって楽しいかもしれないし!





自分を勇気付けながら、電車を降りた。
いつもの改札を抜けて、家を目指す。

街が、夜を迎えようとしていた。
家々にぽつぽつと明かりが点る。



「あ、美乃里。おかえり」

玄関に着くと、そこには見かけぬ親子と、お母さん。

「…ただいま」
意外な出迎えに、私は目を少しだけ見開いた。

ふと目が合った優しそうな女の人。
私と目が合うなり、すぐに笑って会釈をした。

「美乃里、この方たちは今日隣に引っ越してこられたのよ」
お母さんが親子に手を添えて、私に紹介した。
「どうも、秦(はた)と申します」
優しそうな女性が、そう言って律義に頭を下げた。
「…どうも」
そして、私も頭を下げた瞬間。


その女性の、影に。





「はじめまして。美乃里です」
やんちゃな瞳がまだまだ幼い…小学生高学年かな。それぐらいの男の子が1人。
微笑して男の子に言う。
「斗真(とうま)です」
男の子がためらいもなく発した。

そしてニッコリと笑う。



…かわいい!


「じゃあ、他にも挨拶がありますので失礼します」
そう言って親子は私の家の門から出ていった。
斗真くんがお母さんのあとを追うように去っていく。

きれいな肌をした美少年だった。
サラサラで細い髪の毛が、夜風になびいて。
将来が楽しみなくらいに、かわいい。


「美乃里、今日帰り早かったけど、これからどこか行くの?」

お母さんに言われて、私ははっと我に返った。
そうだ!合コン!


「今日夕飯いらない!」
家に駆け込んで、階段を駆け上がる。
部屋に飛び込んで鏡の前に座った。

慣れない化粧に悪戦苦闘しながら、いつもより可愛くなるように施す。
どうしてかな?
お化粧をすると、ちょっとだけ胸が弾む。


「行ってきまーす!」

元気よく声を出して、玄関の扉を開けた。
背中にお母さんが「気をつけてね」と投げかける。




…扉を開けて、ビックリした。








「……………………」

目の前に、玄関の先に、サッカーボールを持った、さっきの…少年。
栗色の繊細な髪質。長い睫毛。小さな頭に大きな瞳。
まだ男か女かも判別のつかない幼げな顔立ち…。


「えっと、うちに、…なにか?」
首を傾げながら、男の子に問う。


「…遊ぼう」
え?
勝ち気に微笑む、その顔が。

「遊ぼうよ、お姉さん」
妙に生意気。




「あ、あのごめんね。これから私…」

「無理なの?」

「うっ…」


一瞬にして、斗真くんの顔が暗くなる。
それに何とも言えなくなる私。

「ボク、サッカー好きだけど、誰も友達いないし…」

斗真くんはボールを持ったまま、私を見上げた。









「えぇえ!?美乃里マジで言ってんの!?」

電話越しに驚きの声を上げる夏菜。
私だってホントはそっちに行きたいよ。
でも…

ケータイ電話を持ったまま、私はボールで遊んでいる斗真くんを横目でチラリと見た。
「うわー、1人かき集めなきゃ。ま、しょうがないって!今度ね!」
焦り声の夏菜はそこでプツッと切れてしまった。
「ごめん…夏菜」
つながっていない受話器に向かって呟く。



ボンッ!
突然、頭に激しい痛み。
足元にボールが転がる。

振り返ると、ニッコリと笑った斗真くん。


「遊ぼう!美乃里!」

「え、あ、うん」


変な違和感を感じつつ、私はサッカーボールを彼に向けて蹴った。







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