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イヴ
キス
夜が来て、朝がきた。

私は初めて、7時半に家を出なかった。
一番遅い電車で、自分のペースで、登校した。


キレイな青空。

私の心も晴れていた。




「あ、おはよう美乃里」
朝の下駄箱。
靴を履き替える途中でチハルに会った。
「おはよう」
昨日の出来事が鮮烈に蘇る。
 チハルはたぶん知らない。私があそこにいたこと。
でも普通に、ごく普通に挨拶を交わす。

チハルと東城くんがどんな結果を迎えたのか気にならないといったらウソになるけど。
どっちでもいいと思う。
うん、そう思う。




「美乃里さぁ、昨日四方木(ヨモギ)街にいたよね?」
「え?」
昼休み、ご飯を食べている最中に夏菜が体を乗り出して私の目を見る。
「ほら、あそこのでかいスクランブル交差点。昨日いたでしょ?」
夏菜が容赦なく私を箸で指した。
「あ、ああ・・・うん」
見られたか。
夏菜ならいてもおかしくない。
夏菜はあそこ周辺でよく遊んでるらしいから…。
「やっぱり。どうしてあんなところに1人でいたの?」
「え…?」
「物騒じゃん?私がいうのもなんだけどさ」
食べているご飯の箸が止まった。

どうして1人でいたか?
1人で?
「1人じゃないよ?」
「そうなの?だれといたのよ?」
「イヴよ。ずっと一緒にいた!」
私は席を立って教室を飛び出した。
「え、ちょっと美乃里!?」
ひどい吐き気がする。
どうして?
どうしてこんなに胸が不安にかられてるの?

トイレに行って、口を開けたが何も出てこない。
でも胸がやけにムカムカする。
顔を上げて鏡を見た。

私…、痩せた?



「ミノリ?」
教会に入って、すぐにマリア像の前の机に突っ伏す。
イヴが私に駆け寄る。
「どうしたの?顔が真っ青」
イヴの微かに冷たい指先が私の頬に触れた。
その指先が、妙に愛しい。

私、変だよ。
私の気付かないところで、私の知らないところで、何かが着実に確実に、変化している。


「イヴ」
「ん?」
彼が私の声に反応して首をかすかに傾ける。
「イヴ」
「なんだよー」

イヴが笑った。
優しくふんわりと、儚げに…笑った。


「キレイな瞳、してるね」
無意識に言葉が出た。
イヴが驚いて目を見開く。
「どうしたの?ホントに」
「すごくキレイ。吸い込まれそう」

細くて、透けると白に近い金髪。
長い睫毛の陰に隠れてる、地球のように澄んだ青の瞳。
色白の皮膚も、ちょっと冷え性な指先も。
ああ、そうか。


「ミノリ、昨日ありがとうね」
私…
「地上の星、たくさん見せてくれて。ボク感動したよ」
この人が好きなんだ。

だけど「好き」って言葉は適確じゃない。
「死ぬほど落ち着く」、こっちの方が正しいかも。

ただいえることは、この人とずっと一緒にいたい。
ずっと私に笑っていてほしい。
胸の奥が、湯たんぽみたいにちょうどいい温度で温かくなるの。


「また、見に行こうね」
振り向いたイヴに微笑を送る。
「…また、星を見に行こう?」

彼が、ふんわりと春風みたいに笑った。



「本当にありがとう。ミノリ」
そう言って彼が私に歩み寄る。
突っ伏して顔だけ横に向けた私の額に、彼がそっと手を添えた。
ひんやりと、心地のいい指。
その気持ちよさに、目をつぶる。

ちゅ。



「…え?」
「幸あるように。のキスだよ」
イヴが照れ臭そうに言う。
照れ臭そうに言ってる時点で、そんなキスじゃない…んだよね。
「もっと、して?私が幸せになるように」
「え?ちょ、何を言って」

もうすぐ日が落ちる。
夕焼けに照らされたステンドガラスは、この教会に美しい光を落とす。
その光の中で。
私は初めて男の人とキスをした。
思った以上に力強いイヴのキス。

やっぱり胸が締め付けられた。
愛しさで苦しくて、恋しすぎて気持ちよくない。


本当の恋、見つけた。


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