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イヴ
地上の星を見せてあげる
「そうだ…」
思い立って声に出す。
「そうよ。街を見に行かない?」
「え?」
「この教会に閉じこもってるように見えるよ。他の世界にも見に行かない?」


半ば強制的に教会から飛び出てきたと思う。
ピンクやら黄色やらのネオンに照らされて、私とイヴはスクランブル交差点を歩いた。

とても、新鮮だった。
いや他人から見れば私たちはすごく「奇抜」なペアだったんじゃないかな。

1人は女子高生。
もう1人は、外国人の神父。

けれど、私は他人の目なんて気にならなかった。
夜の闇のせいもあったと思う。
それにこんなに夜もふければ「奇抜」なペアは「奇抜」ではなくなる。

「ミノリ、こんな夜まで大丈夫?」
「大丈夫!早めに帰るから。ね!」
私は彼の腕をつかんで引っ張っていた。
できるなら、この街を抜けて、常盤山に行きたい。
あそこから見える夜景はすごくきれいで、地上に星が散らばってるみたいなんだよ。

「すごいね。ここは」
イヴは、私のことを心配しながらも久しぶりに見る夜の繁華街に驚いているようだった。
その姿を見て、私は「連れてきてよかった」ととても嬉しくなる。
「あ、あのバスに乗ろう!早く!」
常盤山へと上るバス。
他にも数カップルバスに乗り込んでいる。
「え?う、うん」
イヴはとまどいながら私について走ってきた。
バスに乗って10分程度。
真っ暗な道を登るバス。
 けれど木々の隙間からはきれいな夜景がかすかに見える。
もうすぐだよイヴ。
もうすぐ星が見えるよ。


常盤山の高台に上ると、そこにはかなりのカップルがいた。
みんなこのロマンチックな夜景を見にきているんだ。
「来て!イヴ、あそこね」


「チハル待てよ」
聞き覚えのある名前に、私の体が固まった。
「はぁ、はぁ、…待って、ミノリ」
やっと高台までの階段を上りきったイヴが私に声をかける。

「待ってって。待つ必要なんかない。こんなところまでウソついて呼び出して何のつもり?」
「ウソじゃないって!俺マジでチハルが…」

チハルが…

チハルを掴む腕の持ち主に、私はひどく落胆した。
チハルの、天敵が。
チハルの天敵が、チハルに。
「好きなんだ、チハル」






「ミノリ、キレイだね」
高台のセンターをとることができた。
無数に広がるネオン。
まだたくさんの人が起きて、この街を星を、輝かせている。
「ありがとね、ミノリ。ここにつれてきてくれて」
「………」
「ミノリ。さっきの彼、好きだったの?」
無数に広がるネオンが、徐々にぼやけていく。
こんなにキレイな景色なのに。

どうしてこんなに…


「イヴ、ごめん」
「なんで?」
「私が悲しくなってる」
「いいよ。泣いた方がいい」

私、何に浮かれていたんだろう。
毎日すれ違う彼に恋をしていたのは、間違いない。
でも今日それが、一気に壊された気分。
彼に出会って、話して、喜んで…

私、何してんだろう…
「ミノリ。泣いていいんだよ」
「泣きたくないよ」
「ううん。泣いた方がいいよ」
「…泣きたく…ないってば…」

そう、泣きたくない。
彼に恋をしていた。
彼がチハルを好きだった。
そのことを否定したくて、心の中のどこかでこの事実を信じていない。

「明日は、笑えるよ。今は泣くことが最良の解決策さ」

イヴが、私の頭に手を乗せる。
彼の手の温度が、頭から全身へ浸透して行く。

闇と、ネオンが融合した。
頬に熱い涙が伝った。
「う…ッ」



常盤山の夜景はキレイで、ロマンチックで。
でも心はひどくカラッポだった。

そして、イヴがすごく優しかった。


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