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イヴ
教会の住人




心臓は爆発寸前。
合コンなんて、ホント慣れてないんだから。
本気で怖いんだから。

私、ノリとかわかんないし、簡単に笑えたりしないし…
考え出すと止まらない思考。
怖気づいて行く気持ちが足に表れ始め、足は徐々にスピードを落としていく。
あの角を曲がっちゃったら、チハルと夏菜との待ち合わせ場所だ…。


「あっ!」
「っきゃ!」


大きな声に驚いて足を止めると、頭からバシャッと冷たい水。
「……」
突然の出来事に驚いて、唖然としながら固まる体。
…水?
水が、降ってきたの?

「ご、ごめんなさい!」
駆け寄ってきたのは、金髪のお兄さん。
「…え?」
外人だった。
青い瞳に、ウェーブのかかった金髪。
典型的な外国人だった。
混乱する頭をよそに、その男の人は私の体を急いでタオルで拭く。
ぐっしょりと濡れた制服が、タオルで拭き取れるわけがない。

真っ黒な修道服。
白い襟が映えて、似合っていた。
華奢な体で、優しそうな顔。
「ごめん、ボク前見てなくて!」
必死にまだタオルで拭く、外国人。
「あ、いや、いいですよ!」
やっと正常になった頭で、彼の腕を掴む。





細くて、微かに冷たい腕。
それを決して「キモチワルイ」とは思わなかった。
むしろユリの花のように、愛しくてはかなげで。

「あ、じゃあボクの教会で休んでいってください!そのまんまじゃダメですよ!」
そう言ってグイグイ引っ張る彼。
見かけによらず、ずいぶん力強い腕。
日本語はナチュラルだし、どこかしら日本人じみたところがある。

「きょ、教会!?」
小さな通りに連れてこられた私は、引っ張られながら聞く。
「あ、ボク神父なんです!」
そう言って彼が足を止めた。




「わ…」
見上げると真っ白の外壁をまとった教会が。
屋根の先端には十字架が黄金色に輝いている。
「…キレイ……」
こんな田舎町に、こんなシャレた教会があったなんて。生まれて17年この地で生きてきたけれど、こんな教会がこの街にあるなんて初めて知った。
「そうですか?なんか照れちゃうな」
そう言って頭をかく彼。
マイペースでのんびりな性格だと読み取れた。
「中もキレイですよ!さぁ風邪をひかないうちに!」
木製の扉を開ける。
開けたと同時に、私は眩しさのあまり目を閉じた。






「…!」
恐る恐る目を開けると…。




「わぁ…」
そこにまた、新たな感動。
「…ね?キレイでしょう?」
ニッコリと笑う彼。
光りを浴びて更にキラキラ光る金髪。
いや、それよりも。

眼前に、天井まで突き上げるように伸びて描かれているステンドグラス。
赤や青、黄色に緑。たくさんの色が夕日に染められて光を出していた。
その光が私の顔に体に、降り注ぐ。
「…すごくキレイ…」
「えへへ」
彼を褒めたわけでもないのに、彼が照れ笑いをする。
空を見上げるマリアだろうか。
少女が空を見上げて笑っている。
ステンドグラスの周りを囲む花の絵もキレイだ。
精巧に描かれた天井の絵も見事。
「こんなキレイなところ、あったんですね」
何度も「キレイ」と感嘆の声をあげながら呟いた。

時間も忘れるほどの美しさ。


「ここにキミが訪れたのも神の思し召し。よかったね」
ニッコリと笑う華奢な神父。
あなたが勝手に連れてきたんでしょ。そう心の中で彼にツッコミを入れて笑った。
「ボクの名前はイヴ。ここの神父なんだ。キミは?」
「柄園美乃里です」
彼を見て言ったと同時に、「クヂュン!」とクシャミ。
「わ!ホントに風邪ひいちゃう!」
そう言って慌てて奥へと入っていくイヴ。

年上なんだろうな。
年上なんだろうね。


でも全然年の差を感じさせない彼の仕草。


慌てふためく彼を見ると、私の頬はかすかに緩んだ。








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あきゅろす。
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