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小野寺 夏生
温かな光@(さよ様キリリク)
雪の降っていた、卒業式。
校門が1年で1番活気に満ちていた。
胴上げをする野球部。最後の思い出に憧れの人と写真を撮る後輩。

…そして、私も。




「先輩!」
人混みの中で見つけた先輩。
高梨明先輩。2つ上で委員会が一緒で結構仲もよかった。
勇気を出して、先輩に駆け寄った。
「ああ、美乃里ちゃん」
「卒業式おめでとうございます…!」
「ありがとう」
ニッコリと笑う先輩。
先輩の笑った際に無意識に首を少しだけ傾けるのが好きだった。
「あの、それで…」
写真、そして告白…怖くてカメラを持つ手が震えた。
「明ー!」
髪の長い、すらりとした女性。
「あぁ、桜。帰る?」
「うん。帰ろー。夜にみんなで飲もうってさ」
「そっか、わかった。…あ、美乃里ちゃん何か用あったのかな?」
高梨先輩の視線、仲の良さそうな女性の視線。2つの視線が私に向く。

「あ、いえ…」
私はその女性みたいな化粧もしていなかった。
せいぜいビューラーで睫毛をいじってたくらい。
…その日決心してきた強い意志は、一気に崩壊した。





「今日からこのクラスの社会科を担当します。教育実習生の高梨明です。たった2週間ですが、よろしくお願いします」
9月も半ばのこの季節。
体育大会も終わり、活気を失った県立椿川女子高校が、一気に活気を取り戻す。
「ねぇ、超かっこよくない!?」
夏菜のタイプ、年上&イケメンに見事ヒットした彼は、すぐにみんなの注目の的になった。
「まぁ、あれはちょっと犯罪的かもね」
いつもなら冷静なチハルでさえ、うろたえるくらい。
「美乃里もそう思わない?」
「…え」
思うか、思わないかで問われれば、そりゃかっこいいと思うけど…。
「ああ、お近づきになりたい!」
夏菜の煌めく瞳は天を見上げていた。
その隣で私は確信していた。

あれは、5年前告白しそこねた、高梨先輩だ…と。






「驚いちゃった」
体育に向かう廊下の途中。
チハルと夏菜がトイレに向かったため、私は一人廊下で待っていた。
「名簿みたら、名前あるもん」
ニッコリと笑う先輩。
やっぱり首をかしげて笑う姿は、カッコイイと思った。
「…久しぶりです」
私もどう接していいかわからないまま、曖昧に笑いながら言った。



「ずいぶん綺麗になったね」
ドキ!とした。
切なそうな声色。中学の気持ちが込み上げる。
「彼氏いるの?」
窓枠に肘を置いて、私の顔を見る。
はっ、一瞬忘れるところだった。
「…います」
「…誰?」
「は?」
なんで言わなきゃいけないの?
「ちょっと勿体ないことしちゃったな」
「美乃里〜ごめん待たせ…わ!先生!!」
夏菜が尻尾を振って駆け寄る。
「あぁ、次体育?」
「はい!」
「そう、頑張ってね。美乃里ちゃんも」
そう言って微笑みかける先生。
「みっ、美乃里ちゃん!?」
夏菜が恨めしそうに私の顔を見る。
「なーんか最近さぁ、コイツばっか男運よくない!?」
「…いや先生は、中学が一緒だったの」
「でも美乃里ちゃんはないよなー」
泣きそうになりながら歩く夏菜を横目に、私はかすかに胸に残るシコリを探った。
でもよくわからない。
何かが胸に引っ掛かる。



「美乃里ちゃん!」
帰り道の駅のホームで、電車に乗り込もうとした瞬間、彼の声が聞こえた。
「…先生」
「はぁ、乗り遅れるところだった〜」
そう言って息を切らして飛び乗る先生。
「…あの、「美乃里ちゃん」はまずいと思いますよ」
「……」
先輩がきょとんとして私を見る。
「…あぁ、そうだね」

電車が動き出して、先輩は窓の外を見ていた。
中学の時とは明らかに違う大人の顔付き。
今更だけど、私に彼は本当に似合わなかったな。
「…卒業式の日、呼び止めたよね」
「え」
反射的に顔を上げて先生を見る。
そんなの忘れてると思ってた。
「あの日、何を言おうとしてたの?」
「…いや何も…」
「うっそだ〜!」
からかうように私の額をコツンと叩く。
触れたところが熱い。ヤダ。夏生くんがいるくせに。
『有栖川ー有栖川ー…』
「あ、奇遇だね。オレもここ」
「え!」
驚きながら電車を降りて、改札を通る。
嫌だ。夏生くんいるかも。



案の定夏生くんは駅を出たすぐの所の柱に寄り掛かって立っていた。
「じゃ、じゃあまた明日!」
先生に軽く挨拶をして走り出した。――――その次の瞬間。
「柄園!」
先生が大きな声で私を呼び止める。
夏生くんがこちらに向いた。
「オレ、あの時お前が好きだった。でも勇気が出なくて…お前もそうだったんだよな?」
「・・・・・・・・・・」
絶句した。
なんて言ったらいいのかもわからないくらい混乱した。
嫌だ。夏生くんが…見てるのに。
「…美乃里?」
夏生くんが体を起こして私を見る。
嫌っ、人違い!
「オレ、昔の気持ちが蘇ってきそうだよ。お前のことまた好きに…」
「誰?」
夏生くんが俯く私の肩に手を置いた。
そして、夏生くんの瞳が高梨先輩をとらえる。
「かわいい…彼氏だね」
「は?」
そう言って、先生はタクシーを呼び止めて乗り込んだ。
「柄園、また明日」
残響するタクシーの走り去る音が、私の胸を強く叩いた。
心臓がドクドクいってる。
これは夏生くんに聞かれてしまった焦りの鼓動?
それとも…
「…だれ?アイツ」
「…教育実習生」
「で、なんで昔の気持ちが蘇るの?」
「いろいろあって…」
「いろいろって何?」
「…いいじゃん。そんなのさ、忘れて?」
私は夏生くんに言った。
でも実は自分に言い聞かせていた。
忘れて。消して。
過去の自分が、浮かび上がろうとしているの。





初めて委員会が同じだったときの嬉しさ。
初めて話したときのドキドキ。
「お疲れ様」とか「おはよう」のさりげない挨拶が、たまらなく嬉しくて。
…でも、もう忘れたはず。
忘れたはず…でしょ?
「美乃里、アイツに会うな」
「え?」
帰り道。
夏生くんがわざわざ私の家まで送ってくれている。
「…でも教育実習生だから、毎日会うよ」
「そうじゃなくて」
夏生くんが顔に片手をあてた。
わけがわからず顔を覗き込む。
「…だからつまり」
秋の冷たい風が、二人に吹き込んだ。
枯れ葉が流れ、体温が奪われて。
…もう二人が出会ってから、こんなに寒くなっていたんだね。
「…わかったよ。もう会わない」
嬉しそうに顔を上げる夏生くん。
妙に愛しくなる。
何も言わずに歩き出した夏生くん。
手をつないだ。
…一気に体温が取り戻された。


「おはようございます」
「おはよう」
朝の廊下。
鉢合わせになって挨拶をした。
そう、先生と生徒。他のみんなと何ら変わらぬ関係。
それさえ築けばいい。…昔のことなんて、忘れなきゃ。
「柄園、あの、昨日…」
「…何ですか?」
制止させるように先生を見た。
それ以上は言わないで。昔の話を掘り返さないでよ。


私は今夏生くんがいる。傷つけたくない。
「教室行きますので」
そう言って先生の脇を通った。
中1のころの自分が懐かしい。あんなに喜んでた自分が、今はもうこんなに冷めている。
時って、そうなんだ。
タイミングって、そういうこと。



放課後の教室。
人気のない教室で荷物をまとめる。
委員会が長引いて、ずいぶん遅くまで残された。
「…帰ろ」
鞄を肩にかけて振り向いた瞬間、驚きで体が固まった。
「…せん…せい」
教室の出入口に、高梨先生。
「あの、…さようなら」
「さようなら」
あっさりと返される言葉。
いそいそと先生の横を通った。
「柄園」
腕を掴まれる。
「な、先生」
振りほどこうともがくが、力は先生が圧倒的に強い。
「もう、戻れないのか?」
「何を…」
一瞬先生の力が弱まった。

振りほどいて、走り出す。
「柄園!」
追い掛けてくる先生。
きっと嬉しかった。あの頃の私なら嬉しかった。
でももうそうじゃない。
お互い成長した。過去に縛られるほど、深く落ちたわけでもないでしょう?
「柄園!」
再び掴まれたのは、校門を出て、しばらくした所。
駅に近かった。


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