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小野寺 夏生
あなたの背中を


「おめでとう!」
道場の出口で、私が彼を出迎える。
弓道具を背負った彼が、かすかに笑った…と思う。
「すごかっただろ」
意地悪く笑う彼の顔。
逆に優しい気持ちになるよ。
「あのあと外さなかったね。私のおかげ?」
冗談っぽく笑った。
けれど、夏生くんは否定しない。

それだけでふつふつと幸せが込み上げるよ。



「今日の功労者小野寺!すごかったなぁ!あのあと1本も外さないとは!」
上機嫌の先輩が、夏生くんの背後から抱きつく。
「今日のお前かっちょよすぎだわ!明日からさらにモッテモテ…」
先輩と私の目が合う。
「…え?もしやお前の?」
「そ。オレの」
ニヤニヤしながら先輩に視線を送り、彼が私の腕をつかんで走り出す。
「マジ!オレにさえいないのに!」
遠くで悲嘆する先輩の声を聞きながら、道を滑るように駆け下りた。


このままこの坂を下ろう。
勢いをつけて、どんどん下っていこう。
走るごとに速くなる呼吸、スピード。でも恐くない。

このままこの坂を下ろう。
キミの背中を見つめながら、キミの手を掴んで。





―――――いつまでも、見てるよ。









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あきゅろす。
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