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小野寺 夏生
勝手な…


連れてこられたのは、遊園地。

あまりにも唐突で思考が追い付いてこない。
どうしてこんな平日の夕暮れに、夏生くんと遊園地に来なきゃなんないの!



「すっげぇ人少ない!」
夏生くんが、遊園地の中に走っていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜!」
「早く来いよバカ!」
「う」
冷静に言い放たれてムカッとする。
何様だ!年下のくせにぃ!
「お前、何か乗りたいものあんの?」
「あるわけないよ!突然ここ来たんだし!」
息を切らせて夏生くんに追いついた。
もうなんなのよ、ホントに。

「じゃ、ジェットコースター乗ろうか」
ニヤッと嫌な笑みを浮かべる夏生くん。
もしかして…?






ここの遊園地には二通りのジェットコースターがある。
1つはあんまり怖くなくて、ただ早いだけのジェットコースター。
けれどもう1つは…。

「ロッキー…」
その高さと強烈さで名付けられたジェットコースター名が、ロッキー山脈の名をもぎ取ってロッキーらしい。大きく看板に書いてある。
見上げればレールがクネクネと折れ曲がり、木製なのでギシギシと鳴って揺れている。
「…脱線か崩壊しそうじゃん」
小声で呟いて真っ青になった。
夏生くんはニコニコしてチケットを買っている。
「ねぇ、本気?」
おどおどと尋ねる。
「今さらびびんなよ」
またも冷静な夏生くん。
「…やだなぁ」






「い〜〜〜〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

ゴーゴーと走るジェットコースター。
木製のレールってすごい。今にも壊れそうなんですけど!
「や〜〜〜〜〜だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!夏生のばかやろ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

不安定にレールを走るジェットコースター。
夏生くんは終始ニコニコしている。
ありえない!!




「はぁ…はぁ…」
嫌な冷や汗をかいて、ジェットコースターを降りる。
地面に足を付けたとき、全身が痺れているのに気付いた。
「あれ、人間の乗る乗り物じゃないよ」
「そう?オレもっかい乗りたい」
「1人で乗って!!」
「なんだよ、腑抜け」
胸の中で怒りがこみあげる。
なんなの、このわがままなおぼっちゃんは!!

「あのねぇ」
振り返って夏生くんを睨み付けた。
「あ、あれも乗ろうよ」
けれど服の裾を掴まれて引っ張られる。
今度は何!




『超怖い!落ち武者がマジで出るお化け屋敷!〜テレビにも放映されました〜』

「…なによ、このサブタイトル…」
「なんかすごくね!?」
すごくない!
「高校生2枚お願いします!」
かわいい天使みたいな笑顔で笑う夏生くん。
私にもそうやって笑いかけてくれれば、かわいくて大好きになれるのに。
渋々入るお化け屋敷。
ホントはマジで逃げ出したい。


「イヤッ!」
「わぁ!」
「キャ〜!」

出るわ出るわ、スプラッタ顔のゾンビやら武者やら…な、泣きそう!
「うるさいな〜、もうちょっと落ち着けよ」
「いや!み、見て!あそこに影…いやー!!」

バカバカ、なんでこんなところにまで付き合わされなきゃいけないの?
どうしてこんなに夏生くんに、振り回されなきゃいけないの!

「…夏生くん?」
真っ暗な通路。
掴んでいた腕を、いつの間にか離して走って来てしまった。
…あれ?


通路のつきあたりから漏れる非常口の緑の明かりを頼りに前後左右を見るが、夏生くんの…いやそれ以前に人影がない。
こんな時に限って思い出されるあの入り口にあった看板の言葉。
「や、やだ…冗談やめて…夏生くん…?」
1歩ずつ足を出す。
その足はたぶん10センチも前に出ていない。
「夏生くん…」
徐々に弱々しくなる自分の声。
ああ、怖い…



「…ッ」
恐怖に耐えられなくなって顔を押さえた。
もうここから歩けない!誰でもいいから来て!

泣き声も静寂に包まれた暗やみに吸い取られて、本当の孤独を感じた。
このままずっとここ?
これから夜がやってくるんだよ?
「…夏生くん…」
「いるよ!いるいる!」
背後から声が飛んできて振り返る。
さっきにはなかった人影。
「夏生くん!」
立ち上がって思わず抱きつく。
「…美乃里?」
意外な私の反応に、夏生くんが困惑した。
「はぁ…怖かった」
夏生くんのワイシャツを掴んで、安堵の息を漏らす。




「あっはははは!!」
閉園間際の観覧車。
おまけにって従業員さんがサービスしてくれて、最後の一周に乗せてくれた。
それにしても、こんなに笑わなくてもいいのに。
「なによ、人をバカにして楽しい?」
膨れっ面をして窓の外を見る。
キレイな夕焼け。
遠くの海へ落ちていく真っ赤な太陽が目蓋に痛いくらい。
「だって超びびりすぎ!」
「もう忘れてよ!!」


なんでこんなにひどいの?
自分勝手でワガママで、2重人格。
私にはメアド教えてくれないし、かわいい笑顔も見せてくれない。

「まあまあ落ち着けよ」
そう言って夏生くんが私側のイスに座る。
「ちょっとやめて!揺れる!」
夏生くんの顔を見た瞬間、体が固まってしまった。
なんて大きくて、きれいな目…
私と、その後ろで沈んでいく太陽を映している、意地悪な双眸。

夏生くんは微笑して、私の髪を軽く掴んだ。


そして――――――――
「動くなよ」














「お疲れさまでした〜!」
元気のいい従業員さんが、扉を開けてくれた。
夏生くんに続いて、私は口を押さえて飛び降りる。

「………………………」
真っ赤に燃える夕日でわからなかったのかもしれないけれど。
異常なくらい赤面している私。

「行くぞ!美乃里!」
泣きそうな顔をして、夏生くんを睨んだ。


私おかしい。
どうしてこんなにドキドキしてるの。


変だよ。
少し嬉しいと思うなんて。






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あきゅろす。
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