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小野寺 夏生
体が動く(コロ様キリリク)

明け方、目が覚めた。
昨日は電気をつけたまま眠ってしまったらしい。
激しいセミの声で目が覚めた。


視界に入る窓の奥には真っ青に澄み渡った空が見える。
今日も快晴のようだ。

体を起こして、窓に歩み寄る。
窓から空を見上げて、ため息。


私、どうしてあんなこと言ったんだろう。


彼を、失ったら。
そう考えるだけで怖かった。
なのに、私は自ら手放すようなことばかりしている。


ジリリリリリリ…!


ちょうど目覚まし時計が鳴った。ケータイのアラームも鳴る。

画面に『登校日』と映し出された。











朝の駅。
1番人が多く行き通い、みな急ぎ足で溢れ、乱れ、続く。

私はとぼとぼと駅を歩いた。
いつもいるはずのあの柱に、キミはいない。
昨日理由もないケンカで私が怒鳴ったせいだ。

…無理もないよね。


フッと笑って、地面に落ちていたタバコを足で蹴った。

どうしてこんなに胸が締め付けられるんだろう。
どうしてあとでこんなに後悔してるんだろう。

『西ノ宮行き普通列車、3番ホームに到着いたします』

軽快な音楽とともに構内放送が流れた。
人の波が3番ホームへ流れる。
私もその波に従うように歩いた。

もう一度、柱を見る。



………誰も、いない。












涼しい電車の中で、ケータイを開く。
そこに映るのはただの待受画面。
着信の表示など、カケラもない。

キキーッ!と電車のブレーキで、車内が激しく揺れた。
誰かが捨てた空き缶が、私の足元にまで転がってきた。
私はそれを見ながら、ただ涙ぐむのを堪えていた。

ねぇ、離れたくない。
今すぐ会いたい…!



『神名木〜、神名木〜。神名木でございます』


いつもは降りない駅へ慌てて降りた。
『車両交換のため、5分ほど停車いたします』
そう聞こえた。

電車を降りて、反対側のホームへ走る。
軽快な音楽とともに、電車がホームへ流れ込む。

反対行きの電車に飛び乗って、私は電車の中で息を整えた。
涼しい車内とは打って変わって、火照った体。


深緑の中を走り去る電車がまたキキーッとブレーキをかけた。














ホームに着いて、私はとりあえず彼の学校に行こうと思った。
今日は、部活だよね?


――――その時。



「…美乃里!」

背後から聞き覚えのある声。

「今日登校日だろ?なんで…」

どうやら彼も、私と同じ電車に乗っていたようだ。
学生服に身を包み、涼しい顔して弓を担いでいる。


「…だって、昨日…」


昨日、たわいもない会話でケンカしたよね。
私が小学校の憧れの山岸くんの話したら、急に不機嫌になってさ。
私、どうしたらいいのかわかんなくて、イライラしてしまって…


「…昨日?あぁ。そのことでここに?」

「うん、謝りたくて」


嫌わないでって。


「なんで美乃里が謝るの?」


「だって…」


もしこのままどちらも謝らなくて、険悪なムードになったら離れていってしまうじゃない?
今離れるのはあまりにも過酷だよ。
だから私が。



「学校、行けよ」

ため息をつきながら彼が吐き出した。
えっ、と言わんばかりに顔を上げ、彼の顔を見る。
呆れた…?


「ちゃんと今日もあそこで待ってるから。不安がるな。絶対大丈夫」

彼が、私の頭を撫でて、歩いていった。

私の不安全て、見抜いてくれたの?
不安なの、気付いてくれたの?


「ちゃんと、いてね」


「大丈夫だって」


ちゃんと、いつものように待ってて。
今日は特に一緒にいたい。


「おまえこそ来いよ」
















電車に乗ったあと、一通のメールがきていた。
夏生くんからだった。



『おまえの予想外な先手には負ける。
今日午後に駅で会った時謝ろうと思ってた。』





そして、末行には


『俺もたぶんおまえと同じこと思ってたよ』





電車が有栖川を出る。
晴れ渡る空と深緑の生い茂る町を抜けて。


帰ったら。
とりあえず学校から帰ったら、笑って会いたいね。



なんとなくわかったよ。

私は一人で恋してるんじゃない。








二人で、恋してる。












*END*










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あきゅろす。
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