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小野寺 夏生
突然の…


目をつぶって、誰にもばれないように深呼吸した。
あと5分もすれば、合コン会場のカラオケボックスに到着してしまう。
行く前からさっそく後悔してしまった私は、緊張して破裂しそうな心臓を止めることで必死だった。

「大丈夫かぁ?美乃里ぃ」
夏菜が振り返って私の顔を窺う。
大丈夫!と笑って返す私。
本当はもう笑顔が引きつってます。
「まぁあとは慣れだよ。大丈夫大丈夫」
チハルが優しく笑いかけた。
その笑顔で、ほんの少し緊張が和らぐ。



本日の合コンメンバーは私を入れて、6人。クラスメイトを3人プラスして、カラオケボックスへと直行している。
チハルも夏菜も気合いを入れて化粧したようで、いつもより目鼻立ちがハッキリしている。
なんだか、冴えないなぁ、私って。





「ごめん!遅れた!?」
後ろから覆いかぶさるようなその声に、5人は一斉に後ろを振り向いた。
私も慌てて後ろを振り返った。
そこにはツンツンの頭の男の子が肩で息をしながら立っている。
その後ろには5人の学ラン集団。
「いや今きたところだよ」
チハルがサラリと答える。
「そっか!じゃ入ろうぜ!」
彼の一言で男子も女子もゾロゾロと入っていった。
最後の1人が入口に入る。
見上げれば、クルクルのパーマで身長は私よりちょっとだけ大きいかわいい男の子である。
「…ありがとう」
眩しいくらいの笑顔で言われ、私の顔は一気に赤面した。

あまりにもかわいくて抱きしめたいくらいの甘いフェイス。
天使、といっても過言じゃない。

「あ、いいえッ」
それだけ言って、私も入口へと進んだ。






席はどれも埋まっていて、どうやら私は出入り口に近いソファの端に座るしかなかった。
運がいいのか悪いのか、さっきの彼が私の隣に座っている。
何か話題を広げたい。この技術を手に入れるために今回合コンに参加したわけだしッ!

店員が私の前にメロンソーダを置いた。
真っ白なバニラアイスが、碧の海に浮いている。
私はワクワクしながら、そのソーダに手を伸ばした。

「はっ、子供っぽ」
嘲笑をこぼしながら言われ、私は隣を見上げた。
そこにはさきほどと同じ天使のような顔をした少年が。
「え…?」
「キミの名前、何?」
…聞き間違いだったのかな?
何事もないようだ。
「あ…柄園美乃里です」
「…美乃里…チャンね」
「…あなたは?」
薄暗い照明のせいか、彼の顔がよく見えない。
いや、笑っているんだと思う。
笑っていると思うんだけど…。
「…なんでお前に話さなきゃいけないの?」
「…………………………………」
聞こえてきたのは、巨大な音量での前奏。
マイクを持ったツンツン頭の子と金髪の子が踊っている。
「…………え?」


…聞き間違いだよね…?




「なんてね!僕の名前は小野寺夏生!よろしく」

かすかに見えるその表情は。
ニッコリと微笑む天使。


「よ、よろしく…」







カラオケは大盛り上がりで終了した。
いや、私はまともに歌いもせずただジュースを飲んでいただけなんだけど。
雰囲気が楽しめた。みんな笑って、楽しそうだったし。
いい経験したかなって感じで。
「美乃里ちゃん」
振り向くと…夏生くん。
結局彼とは席が隣だったわけだけど、うまく会話ができずに終わって残念だった。
「はい、ケー番」
夏生くんが紙を差し出す。
「あ、ありがと…」
受け取ろうと手を伸ばした。


―――――――その時。




伸ばした右手首をグッと掴まれる。
「え――…」
それは、一瞬の出来事。




夜の繁華街。
ほとんどの人間はできあがって、向こうでギャーギャー騒いでる。
こちらのこの行動に誰も気付かなくて。


右手が解放されて、私はすぐに唇をおさえた。



今、私達、…何した?



夏生くんが、口の端を舐める。
その仕草に、私の顔は噴火しそうになって。



「…なんで…」

涙目になって小声で呟く。


「美乃里って気弱でおとなしくて便利だね。…僕のシモベになってよ」



今度は全身の血が抜けたくらいに真っ青になって。
私は耳を疑った。
え?
頭、大丈夫?



「なれって言ってんの」







キス、された…





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