檜山 貴之 夢で終わらせない【完】 「あぁ、また柄園か」 タバコをくわえたまま、風に吹かれている先生。 はためく背広が宙に舞って、思わず瞳を奪われた。 「どうした?」 なかなか動かない私に、眉を潜める先生。 …言うよ。 言うからね。 受け止めて? 「先生、付き合おう?」 「ゴホッ!…ッゴホッ!」 私の突発的な発言に、思わず咳込む先生。 涙目になりながら、私を見上げる。 「柄園、何を突然」 「私、隠せる自信あるよ」 「いや、だから俺には」 「好きだよ」 屋上のせいだろうか。 風が、とてつもなく大きな風が吹き付けてきた。 めくりあがるスカート、あなたのネクタイ。 愛しい。 何よりも誰よりも、この瞳に映るこの景色が好きだよ。 あなたとどこまでも歩きたい。 何度も手を離してしまうかも。 でももう一度つなぎなおして、何度も組み直して、そうして歩いていければいいよね。 顔を押さえて、震える口元を隠した。 あなたが好き。 言えただけで、胸が熱くて苦しくて。 「…本気で言ってるのか?」 先生が驚いた顔をして立ち上がる。 「まともに遊びにも行けないんだぞ」 「…うん」 顔を縦に振る。 そして、顔を隠していた両手を掴まれて。 「…先生も言って?」 見上げて呟く。 ねぇ、私たちやっと… 「好きだよ」 両思いになれたんだね。 昼休みが終わるチャイム。 脳天つきあげる歓喜に脳は麻痺して。 この背中に、腕を回すのが夢だった。 引き寄せるのが、夢だった。 もう夢で、終わらせない。 *END* [前へ] [戻る] |